時任可愛い
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2009年に発行したキチクボタ(鬼畜な久保ちゃん)×時任のアンソロに収録した小説のWEB再録です。
まぁまぁエッチなやつなのでpixivさんにアップしました↓

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14875536

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にじこさんが発行された御本の感想を小説にしてみました(怒られたら消します)
にじこさんに感想が伝わらないと意味がないので、後日、解説文を載せます(怒られなかったら。。。)






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あいつはきっと、地獄の底でこそ最も美しい。
「おはよ、時任」
とっくに正午を回った頃に起きて来た同居人にそう声を掛ける。
時任の寝坊には責められない事情があるので(今までも責めたことはないが)嫌味で言った訳ではない。
単なる挨拶だ。
目を擦る仕草は妙に幼くて、色気などは感じない。
寝ぐせもピンと立っている。
気怠げな雰囲気だけが昨夜の名残を漂わせていた。
「……はよ……」
「顔、洗ってきな」
ふわぁあと猫の様な欠伸をするあいつの為にコーヒーを淹れてやる。
真夏だが、クーラーでキンキンに冷えた寝室で寝冷めした体にはホットがいいだろう。
リビング戻ってきた時任は眠気が覚めているようだった。
ソファーに腰を下ろしたあいつにコーヒーを手渡すと、少し冷ました後、くぴくぴと飲み始める。
その隣に腰を下ろした。
もう飽きるほど見た横顔を眺める。
黒髪の隙間から覗く、目が好きだ。
影を落とす程に長い睫毛と、薄い瞼、意思を煮詰めたような眼球で構成されている。
飽きるほど見た筈だが、飽きるのはもっと先になりそうだと思いながら、口を開く。
「今日、夜からバイトだけど」
「……知ってる」
こちらを見ないまま答える分かりやすく不機嫌な様に、内心で笑いを噛み殺しながら言葉を続ける。
「それまで、デートしない?」
「……へ?」
今度こそ時任はこちらを向いて、猫目を大きく見開いた。
それこそ毎日のように二人で出かけているが、それを『デート』と形容したことはない。
「駅前のゲーセンに新しい筐体入ったらしいよ?格ゲーの。今日は好きなだけ遊んでいいから」
ぱっと時任の表情が喜色に明るく染まった。
と思いきや、直ぐに視線を落とし、しかめ面をする。
怒っているようにも見えるが、これは気遣っている顔だ。
くるくると表情が変わる様は宛ら万華鏡。
「久保ちゃん、寝とかなくて平気か?徹夜だろ?」
「へーき。寝てたら勿体ないっしょ」
時任は擽ったそうに笑った。
お前は幸せだと少しだけ眉根を寄せるね。
その顔が見たかっただけ。
昨夜の強がりを見た後だから。
「お前も付き合えよッ!」
「謹んでお相手させて頂きますよ」
「ボッコボコにしてやる」
「それはどうかなぁ」
「んだとぉ~~」
時任は唇を尖らせた。
昨夜散々吸ってぽってりと赤く腫れていた唇だ。
何の痕も残さないそれが妙に悔しくなって、肩を抱き寄せ、覆いかぶさる様に唇を重ねた。
少し舌を出し、柔らかな皮膚をなぞる。
コーヒーの味。
何度か啄んで唇を離すと、時任は胡乱げに俺を見上げた。
「……ゲーセン、行くんだろ」
「行くよ。でも、ちょっとだけ……」
約束を反故にする気はないけど、例えこのままゲーセンに行かなくても時任は俺を許すだろう。
黒髪を無遠慮に撫でても。
頬を抓んでも。
前触れもなく口づけても。
指の痕が残るほど強く腰を掴んで、粘膜の奥の奥まで暴いても拒まれはしない。
最期の我が儘だって。
俺は時任稔に許されている。
お前は?
こうやって誰かに許されたことがあるんだろうか。
地獄の様な夜の底で、安堵の泥濘に頭まで沈めて。
その誰かは、許された筈のあいつが今も過去の罪悪感に呼吸が出来なくなっていることを知っているのだろうか。
それこそがその誰かの思惑なのではないかと邪推してしまう。
暗闇でより輝かせるために。
俺はきっと、苦しみに嘔吐き、震え、目を見開きながら汗と涙を滴らせる姿を目にすることはない。
それでも前を向く、濡れた黒髪の隙間から現実を睨める美しい瞳と奇跡の様のような煌めきからも、生涯目を逸らし続けるだろう。
俺がお前に残すのはトラウマじゃない。
凍える夜に一つ一つ灯す、マッチの炎のように微かな思い出と優しさ。
悴む指先すらも温める力はない。
あっという間に燃え尽きてなくなるかもしれない。
だが、もし、お前が二度と立ち上がれなくなるような痛みを与える者がいるとすれば、それは俺なのだろう。
きっと、多分ね。

拍手[13回]

「……夢……なのか?」
「そ」
「……ガッコは?行かなくていいのか?」
「勿論」
夢だって言ってるのにねぇ。
律儀にそう確認してくる時任が可愛くて、俺は心の中だけでひっそりと笑う。
「時任のしたいことしていいんだよ。どっか遊びに行く?」
今だ混乱の抜けきらない時任に優しく微笑んで、絡め取るような甘い言葉を囁く。
腕の中で身じろいで、時任は揺れる瞳を俺に向けた。
「俺の……したいこと?」
「そ」
「……じゃあ」
派手な電子音が鳴り響く。
「っだーッ!!また負けたッ!!」
「これで時任の10連敗。気ぃ済んだ?」
「くっそーッ!!俺の夢だろ!?なんっで俺が勝てねぇんだッ!!」
時任は喚いて大の字に引っくり返った。ボスンと音を立てて後頭部がソファーにぶつかる。
コンティニューする気も失せたらしい。
せがまれるままゲームに付き合った俺は、苦笑してコントローラーを隅にどけた。
「っていうかなんでゲームなの?こんなのいつもやってるっしょ」
「だってさぁ……夢ん中だったら久保ちゃんに勝てるかなってさ……」
悔しそうにブツブツと呟いている。
どうにもこうにも俺に勝ちたくて仕方がないらしい姿が、全く、お前らしくて笑ってしまう。
余りにも時任らしい時任の姿。
胸ポケットから煙草を引っ張り出しながらそれっぽく聞こえる推測を述べる。
「お前がもう俺に勝てないって、深層心理の中に刻み込んじゃってるからじゃない?」
「んなわけあるかーッ!!いつかぜってぇ勝ーつ!!」
「はいはい」
喚く声に宥めるように相槌を打って、黄ばんだ天井に向かって苦い煙を吐き出す。
『夢』なんていつまでも誤魔化し続けることは出来ないだろうけど、今はこれでいい。
そう。これは夢じゃない。
夢なワケない。
お前が居るから。
最初は、時任が記憶を取り戻して混乱しているのかと思ったが、直ぐにそれが間違いであることに気付いた。
時任の認識に一貫して『俺』がいるから。
俺と学校に行って、同じクラスで、生徒会に在籍して、他の仲間ともわいわい一緒に日々を楽しんでいる。
そんなありえない、空想のような俺達の話。
虚妄か冗談かとも思ったけれど、それにしては話に矛盾がなく精密で出来すぎていたし、なによりコイツは嘘がつけない。
俺は、時任の話が全て嘘ではないと仮定した上で無理矢理こう結論付けた。
『この時任はパラレルワールドからきた別の時任だ』、と。
パラレルワールド、俗に言う多重世界。
平行宇宙論なんかと縁の深い概念だけど、はっきり言って絵空事の類だ。
記憶喪失の方が余程、現実的ではある。
そんなあるかどうかも分からない平行宇宙から来た?時任が?
馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しいけれど、時任の話を信じるならこうだとしか考えられなかった。
正直、事象も原因も俺には興味がないしねぇ。
お前が居る、俺が居る、他はどうでもいいじゃない。
「…………」
煙草を吹かしながら思考に沈んでいると、時任が俺の顔をじぃーっと見上げていることに気付く。
さっきまでの仏頂面じゃない、眉根を少し寄せて、なんだか切なげな表情。
そそるね。
「どした?」
吸いかけの煙草を携帯灰皿に捻じ込んで、顔を覗きこむ。
床に寝転がったままの時任。
「夢……なんだよな?」
おずおずとこちらに手を伸ばして、そのまま俺の首に手を回して強く引き寄せた。
抵抗することなく覆い被さる様に倒れこんで、体重で時任を潰さないよう咄嗟に右手で身体を支える。
そんな配慮に構わず時任はぎゅうぎゅうと俺を抱き締めた。
強く、強く。
「夢だから」
それはまるで自分に言い聞かせているような口ぶりだった。
夢じゃなきゃこんなことできない、そんな風にも聞こえる。
何度も、俺達はこうして抱き合ってる筈なのに。
そんな時任の様子に違和感と、微かな疑惑が胸裏を過る。
……まさか。
いや、そんな筈ない。
だって、『俺』は傍に居たんでしょ、ずっと。
「今日はやけに甘えんぼだね、時任は」
空いている左手で艶やかな黒髪を撫でる。
性的な意味合いは込められてないのが分かるから我慢してるけど、これって結構辛い姿勢。
「ん……なんかさ、ここでこうしてずっと久保ちゃんと二人っきりだって、実感したかった。例え夢でも」
夢じゃないよ。
その言葉を飲みこんで、甘い言葉だけ、都合良い言葉だけを吐き出す。
「ここには俺とお前しかいないよ」
首に縋りついたままの時任の顔は見えない。
「だって久保ちゃんには五十嵐センセとか藤原とか……いるじゃん」
時任にしては珍しく、やけに自信なさげに誰かの名前を口にした。
あちらの関係者の名前だろう。
俺の知らない誰かの名前。
「お前だけだよ」
真っ赤な耳に囁いて。
更に力の込められた腕と同じくらい強く抱き締める。
温かな体温は愛しさと、確かな満足を喚起させた。
時任に『これは夢だ』と吹き込んだのは俺のためだ。
夢の中なら、右手や自分の正体について探ろうと思わないだろうから。
付きまとう手間や危険が嫌なわけじゃない。
一緒に死地に立つ高揚感もないではないし、何より俺は常に時任の望みを叶えたいと考えている。
そう、時任が望むのなら。
でも、それが時任の望みではなかったら?
時任の過去は離別のリスクでしかない。本当は知りたくなんてないんだよ。
だから俺は時任がソレを望まない状況に誘導した。
時任には夢だと言ったけど、夢なんかじゃない。
現実は、夢じゃない。
夢であればと願っているのは――俺の方だ。
俺に都合のいい状況に満足する一方で、こう思わずにはいられなかった。
昨日までの時任は、何処へ、と。

拍手[8回]

「お前の望みは何だ?」
黒い猫目が真直ぐに俺を見る。
「三つだけ、何でも叶えてやる」
黒髪の綺麗なその子は静かにそう言った。
「一つで良いよ」
俺はそう言う。
「ずっと傍に居て欲しい」
彼は、それを聞いてやや眉を顰めた。
「お前は、ずっと傍に居る気もないくせに?」
俺は笑う。
「さぁ?」
手の中の、小さなランプが鈍色に光る。
「どうだろ」
表面に、俺の顔が歪んで映った。
「まぁいいよ、お前が何願おうとさ」
やや投げやりに、今度は空を仰ぐ。
「で、他の望みは?」
俺は、煙草を取り出す。
「ないよ」
火を付ける。
「ないよ、じゃねーよ」
吸い込む。
「三つ叶えないと、お前から解放されねーんだけど」
吐き出す。
「知ってる」
白煙が、二人の間に立ち昇る。
「だから、保険」
怪訝な顔が白くけぶる。
「俺の望みは、ずっと傍に居て欲しい、だって言ったっしょ」
今日は、煙草が酷く美味い。
「望みの力なんて信じてないから」
煙草が美味いなんて思ったのは、初めてだ。
「俺は死ぬまで、二つ目の望みを口にしないよ」
手の中には、君の運命。
「死ぬ時は、一緒にこのランプも壊して逝くから」
魔法のランプの正しい使い方。
「最悪だ」


君の声は、何故かとても優しく鼓膜を震わせた。

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