「時任。料理の練習しよっか」
「は?」
唐突にそんなことを言われて面食らう。
俺の手にあった漫画とポテチを取り上げると、
「だってお前、折角教えたスパゲティの作り方も忘れちゃったし」
「久保ちゃんが作ってくれりゃいいだろ~」
今まで文句一つ言うことなく飯作ってくれてたのに(カレーばっかだけど)
面倒になったとか?
「でもねぇ。俺がバイトで遅くなった日とか、お前菓子食べて済ましちゃうし、それじゃ体に悪いっしょ?
時任がちゃんと料理できるようなら俺も安心して長期のバイトできるし」
「……」
そうまで言われちゃ、もうヤダとか我が儘は言えなかった。
「じゃ、まずチャーハンね。材料切ってご飯と一緒に炒めるだけだから」
包丁と野菜を渡されて、我ながら危なっかしい手つきでピーマンを切っていく。
「ときとーそれだと千切り」
細すぎだと言われて太さを調整しようとするけど、慣れてないし変な力が入るしでなかなか大きさが揃わない。
次ニンジン切ってね、と言われるも、
「うん。だからソレ千切り」
どーにも俺は細く切ってしまう傾向にあるらしい。
段々イラついてきて、切る手を早めたら、
「指切りそうで怖いからもうちょっとゆっくり切ってね」
心配性な久保ちゃんはウルサい。
「だーもーうるせーッ!!」
そんなこんなで出来たチャーハンは、野菜がすげぇ不揃いだし、卵もご飯も焦げてるし、
その上塩とコショウのかけすぎでものすっげ辛かった。
「……作り方、覚えた?」
「全然」
悪びれずに首を振る俺に久保ちゃんは柔らかく笑って、やっぱお前は俺がいなきゃ駄目だねぇと言った。
うん。駄目だからさ?
ずっと側にいろよ。
これからも俺はきっと料理なんて覚えない。
だから久保ちゃんは、俺にカレーばっかだとか文句を言われながら飯作るんだろう。
いーんだよソレで。
俺が料理覚えるよりもお前が毎日ちゃんと帰ってくる方が簡単じゃん。
そう口に出して言えないから、俺は絶対に料理を覚えない。