時任可愛い
「……む、りッ」
「いいから、口開けて」
先程まで薄く開き、乱れた息を吐き出していた唇を頑なに閉じ、力なく首を左右に振る。
「……吐く……」
「我慢しな」
無理なのは分かっている。
無理を承知で、唇を指でこじ開けた。
熱い。
溶けそうな体温。
ぬるりとした唾液が指に絡まる。
柔らかい舌の表面にゆっくりカプセルを押し付けると、あいつは一層苦しげに眉根を寄せ、目尻に溜まった涙を零した。
「薬飲まないと、熱、下がらないでしょ」
飲めないのはあいつのせいではない。
好き嫌い故ではなく、薬物に対する過剰な拒絶反応はあまり知られないあいつの体質だ。
普段は意識することもない。
しかし、例えば風邪で熱を出して寝込んだ時、こういう時、途方に暮れる。
体温を計って、額に冷えピタを貼って、毛布で温めて、それで?
後は神頼み?
たかが風邪で、少し熱を出しただけで、ありとあらゆる終焉を告げられたような気持ちになる。
馬鹿馬鹿しいこれど、どうしようもない。
「……うッ……」
そう。どうしようもない。
どんな気持ちに苛まれていたって、受け付けないものは受け付けないし、熱も下がらない。
苛立って、指で舌をなぞる。
口腔を蹂躙されるあいつの表情はどこか卑猥だ。アレルギーのようなものだと認識してはいるが、実際のところ、薬物への全身での拒絶が何であるのかは分からない。
しかし、注射痕がなかったあいつに投与されたのは、経口摂取タイプの薬物であった可能性もあるのだ。
(つまり世界の終焉よりも他の誰かに投与された何かには拒絶しなかったんじゃないかなんて拒絶されてる現実が引き起こす嫉妬とか妄想めいた勘繰りの方がこの衝動に対する理由付けとしては最適なワケで)
喉の奥に、無理矢理カプセルを押し込もうとする。
苦しげにあいつが呻く。
結局止まる指。
入口を侵略するのが関の山で、どう足掻いたってその先には進めないのだ。
ナカは支配できない。
あいつは俺の神であって、あいつの神は俺ではないのだから。
(しかしそれも結局は、苦しむあいつを見たくないその場凌ぎの言い訳でしかなくて)
「いいから、口開けて」
先程まで薄く開き、乱れた息を吐き出していた唇を頑なに閉じ、力なく首を左右に振る。
「……吐く……」
「我慢しな」
無理なのは分かっている。
無理を承知で、唇を指でこじ開けた。
熱い。
溶けそうな体温。
ぬるりとした唾液が指に絡まる。
柔らかい舌の表面にゆっくりカプセルを押し付けると、あいつは一層苦しげに眉根を寄せ、目尻に溜まった涙を零した。
「薬飲まないと、熱、下がらないでしょ」
飲めないのはあいつのせいではない。
好き嫌い故ではなく、薬物に対する過剰な拒絶反応はあまり知られないあいつの体質だ。
普段は意識することもない。
しかし、例えば風邪で熱を出して寝込んだ時、こういう時、途方に暮れる。
体温を計って、額に冷えピタを貼って、毛布で温めて、それで?
後は神頼み?
たかが風邪で、少し熱を出しただけで、ありとあらゆる終焉を告げられたような気持ちになる。
馬鹿馬鹿しいこれど、どうしようもない。
「……うッ……」
そう。どうしようもない。
どんな気持ちに苛まれていたって、受け付けないものは受け付けないし、熱も下がらない。
苛立って、指で舌をなぞる。
口腔を蹂躙されるあいつの表情はどこか卑猥だ。アレルギーのようなものだと認識してはいるが、実際のところ、薬物への全身での拒絶が何であるのかは分からない。
しかし、注射痕がなかったあいつに投与されたのは、経口摂取タイプの薬物であった可能性もあるのだ。
(つまり世界の終焉よりも他の誰かに投与された何かには拒絶しなかったんじゃないかなんて拒絶されてる現実が引き起こす嫉妬とか妄想めいた勘繰りの方がこの衝動に対する理由付けとしては最適なワケで)
喉の奥に、無理矢理カプセルを押し込もうとする。
苦しげにあいつが呻く。
結局止まる指。
入口を侵略するのが関の山で、どう足掻いたってその先には進めないのだ。
ナカは支配できない。
あいつは俺の神であって、あいつの神は俺ではないのだから。
(しかしそれも結局は、苦しむあいつを見たくないその場凌ぎの言い訳でしかなくて)
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