時任可愛い
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ある朝目覚めると、時任が卵になっていた。
シーツの上に、白い卵がちょこんと転がっていた。
その日は同じベッドで寝ていたから、俺の身体で潰してしまわなかったことに安堵した。
卵になった時任を、俺は懐に入れて温めることにした。
それが時任であることを俺は疑わなかった。
俺にとって恐ろしいのは時任が卵になることではなく、時任が俺の側に居ないと認識することだった。
割らないように細心の注意を払い、肌身離さず持ち歩いた。
俺と時任は生活と時間の殆どを共有していたけれど、こんなにも24時間全て一緒に居ることは出来なかった。
少し楽しい気持ちになる。
鶏卵であるから、孵ったら鶏の雛の姿だろうか。
俺の後ろを付いて回る時任の姿を想像して、頬を弛めた。
毎日話しかけた。
テレビ面白い?ラーメン食べたいね。ゲーセン行く?
何度も呼び掛けた。
時任。時任。
舐めてもみた。
ざらりとした卵の表面。
炭酸カルシウムの硬く冷たい舌触りは、あの柔らかく熱を持った時任のそれとは似ても似つかない。
けれども俺は、それが時任であるか否かを疑うことなど出来ないのであった。
あれから1ヶ月が経つ。
卵は一向に孵る素振りを見せない。
俺のような人間が温めても何も生まれやしないのかと落胆にも似た気持ちを抱きながら、もう一つの可能性に気付いてもいた。
この卵は元々、孵らない卵だったのではないだろうか。
卵そのものが時任なのだ。
卵が孵るということは、時任から時任が生まれるということで、道理に沿わない。
しかし卵が孵らないというのなら、俺は何をどうすれば良いのか。

決まっている。

俺は茶碗を一つ用意した。
塩か醤油か迷ったが、余計なものを混ぜたくなくてどちらも止める。
火に通すのも気が引けた。
殻を捨てるなんてこともしない。
粉々にして磨り潰して、全てを腹に納める。
俺は時任を手に取った。
もっと早くこうするべきだったのだ。
1ヶ月温め続けた卵は、恐らく腐ってしまっているだろう。
けれど、元々賞味期限など大して気にはしない。
中身がどんなにどろどろでも、それが時任であるなら。







ぱかり。

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