「弾切れだねぇ」
空のマガジンが床に落ちて乾いた音を立てる。
この状況下において弾切れは、死以外を意味しない。
時任はしかし頷くだけで、
「囲まれてるよな。なんで来ねぇんだろ」
突破口を探るのに余念がなかった。
こんな時でもただ生きようとしている。
「体勢整えてるのか機を伺ってるのか……どっちにしろ、あちらさんに逃がす気はないっしょ。いずれ来るよ」
それまでのんびりしてればいいじゃない。
まだ視線を巡らせている時任の肩を抱き寄せた。
人気のない倉庫の中。
出入り口に一応鍵はかけたが、随分と頼りない砦だ。
侵入は、楽ではないだろうが不可能ではない。
突破する為の弾薬も尽き、相手の出方を待つしかない、そんな現状。
俺達を囲む殺気が肌をチリチリと焼き、胃に重くのし掛かる。
今までになく死を身近に感じて、ああ、これが最期かと他人事のように思った。
最期。
終わり。
続かない。
明日がない。
時任が微かに身じろいだ。
視線をやると、張り詰めた表情を崩してはいなかったが、性に合わない待つことを強いられている為か、唇を尖らせて不機嫌そうな顔をしていた。
そんな時任を見たら、
これが最後だと思ったら、
「あ―暇!」
この唇の味を、
肌の感触を、
重なった時の熱を、
「じゃ、暇潰しに」
知らないままで死ぬのが、
酷く、
勿体無くなって、
「セックスする?」
我慢が出来なくなった。
抱き合いたくなった。
隙間なんてなくなる程に、深く。
「……こんな時にか」
目を見開いて呆けたような表情の時任が洩らしたのは、拒否ではなくそんな言葉だった。
「こんな時だから」
細い体を力任せに胸の中へ抱き込む。
耳元に囁くのはなんだか言い訳じみた言葉。
「戦場とか、命が危ういって感じると子孫を残そうとする本能が強くなって、セックスしたくなるんだよねぇ。動物と一緒で。
今、お前が欲しい」
時任が躊躇いがちに顔を上げた。
その瞼に口付ける。
平常よりも僅かに熱い。
顔を離すと、ぎゅっと目を瞑って耳まで真っ赤になっていた。
羞恥心で一杯一杯なその様に思わず笑みを漏らして、今度は固く閉ざされた唇にキスを落とした。
ただ触れる様に、そっと。
何度も。
時任は抵抗しなかった。
下唇を軽く吸うと僅かに唇が開かれ、誘われるように舌を入れて口内を愛撫する。
時任は恥ずかしそうに身じろいだが、それでも、おずおずと舌を絡めて応えて、それに堪らなくなって一層深く貪った。
唇を離すと、僅かに熱っぽく目を潤ませた時任は、口の端を拭って
「ニガイ」
と一言だけ言った。
俺は笑って、
「甘い」
と、また口付けて言う。
パーカーのファスナーを下ろしながら、
「ホントはずっと、お前にキスしたりセックスしたりしたいって思ってたよ」
最後だからか。
何だか告白のような言葉が口を突いて出てくる。
露わになった鎖骨に口付けて強く吸った。
「俺は、そーゆーの考えたことなかったけど……」
不器用に俺のシャツのボタンを外しながら、
「久保ちゃんに、キスされても……何されても、絶対ヤじゃなかった」
時任はそう言う。
「そっか……なんか勿体ないやねぇ、これで最初で最後なんて」
お前の傍が余りにも居心地が良くて、現状に満足してたけど。
もっと欲張ればよかった。
もっと欲しがればよかった。
もっと抱き合っていたかった。
これが最初で最後なんて、なんて勿体無い。
死ぬなんて決まってねぇだろ、諦めんなとお前は怒ったけど、でも、
このまま死んでもいいって思ってるんだよ
俺は
だって
こんな
幸せな死に方
「はーい!久保田せんせぇー」
「何かな?時任君」
「俺はー、何で久保田先生の膝の上にのっけられてるんですかー?」
「時任君が可愛いからかなぁ」
「はーい!じゃあ何で、俺はセーラー服を着せられてるんですかー?男なのに」
「時任君が可愛いからかなぁ」
「はーい!じゃあ何で、先生の手は俺の太股撫でてるんですかー?」
「時任君が可愛いからかなぁ」
「はーい!じゃあ何で、先生は今にも俺のことを押し倒そうとしてるんですかー?」
「時任君が可愛いからだねぇ」
「ふざけんなッ!この変態教師ッ!」
「全て時任君の可愛さが悪いと言うことで」
「元凶はお前のエロさだ!」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃねぇ!離せ!」
「やだ。セーラー服って、美味しい服装だよねぇ。スカーフ取っちゃったら、手ぇ縛れるし」
「縛ろうとすんなッ」
「上着の裾からも、スカートの裾からも手ぇ差し込めるし」
「手ぇいれんなッ」
「時任君のケチ」
「セクハラで訴えんぞ、このエロ教師」
「イケナイ子には先生、お仕置きしちゃうよ?」
「ヒャッ!ちょ、止めッ」
「止めない」
「うわっ!ぎゃはははははははははははははははははッ!久保ちゃんくすぐってぇって~~~~ってどさまぎで、んなトコ触んなぁッ!」
「あ、バレた?」
「ばれるっちゅーの!……ったく、個人授業するっつーから来てみれば……」
「個人授業って時点で、俺の魂胆に気付くべきだよね」
「あ?何か言ったか?」
「別に?あ、折角だから、ちゃんと授業しよっかー」
「何が『折角だから』だよ!」
「じゃ、時任君の好きな近代史ねー」
「別に好きじゃねぇよ……」
「では、黒板に書かれた文字を読んで下さい」
「あー?…『駅弁』…って、なんじゃそりゃ。」
「駅弁とは何でしょう?」
「…駅で食う弁当だろ?」
「駅弁と言われて、思いつくことは?」
「んなこと言われてもなぁ……新幹線とか乗ったことねぇし」
「ヒントは、体に位」
「カラダニクライ?ますますわかんねー!ってか、これ近代史なのか!?」
「時任君は全然分かってないみたいなので、先生が特別にじっくり教えてあげるよ。…実戦で」
「うわっ!」
「駅弁は、体勢的にキツイけどがんばろーね」
「てめッ!やっぱりこういうオチかぁッ!」
「スカートっていいなぁ。めくるだけでエッチができるし」
「くそーッ!セーラー服も、エロ教師も反対―ッ(泣)」
「滝さん、何コレ」
久保ちゃんがバイトでいないからヒマして、俺は滝さんの家に遊びに来ていた。
フリーになった所為か、滝さんは訊ねると結構な確率で家に居る。
無遠慮に雑多な部屋を詮索していると、妙なモンを見付けた。
「何コレって、どー見ても眼鏡でしょー。トッキー毎日見てるじゃない」
滝さんはカタカタとパソコンのキーボードを叩きながら、コッチを振り返った。
「毎日見てるけどさ、滝さん眼鏡なんてしてねーじゃん」
「それは伊達。潜入の時とかに使う変装用」
「ふーん」
少し大き目のそれは、久保ちゃんのに似てる気もする。
かけてみると確かに視界がハッキリして度はなかった。
「お、似合うねぇ」
眼鏡姿の俺を、滝さんが笑う。
「俺サマは何でも似合うんだよ」
憎まれ口を叩きながら調子に乗って、
「他にも何かねぇの?」
と、言ってみる。
「そこのクローゼットに俺の背広があるから、それ着てみたら?」
言われた通りクローゼットを開けると、元勤め人らしく沢山の背広が並んでいた。
その内の一つを選んで早速着てみる。なんだかワクワクして楽しい。
勢い良くパーカーを脱ぐと何故か不自然に滝さんが目を逸らしたけど、構わずワイシャツとグレーの背広を羽織る。
袖を通すと、少し大きい。
「俺、カッコイイ?」
「カッコイイカッコイイ。新米リーマンでも十分通るね」
鏡で見てみると、確かに、そこに写った俺は新米リーマンだった。
野暮ったい眼鏡と着なれてない感じが、まさにそのものだ。
こんなの着る機会なんてなかったから、かなり新鮮な気分。
……この姿見たら、久保ちゃんはなんてゆーかな?
笑って、やっぱり「新米リーマンみたい」って言うんだろうか。
そう思ったら、何か久保ちゃんに見せたい気持ちが急にムクムク湧いてきた。
「滝さん!!明日返すからさ、コレ借りていいッ?」
「あー、それは別に構わないけど……」
滝さんは困ったような変な表情で曖昧に言葉を濁す。
「……大丈夫かな?」
「は?何が??」
「あーうん、まぁ、その、頑張れトッキー」
「はぁ???」
何を頑張るんだ、一体。
変なもんでも食ったのかな、滝さん。と、首を傾げながら俺は滝さん家を後にした。
このカッコで街中を歩くのはコスプレみたいで少し気恥ずかしい。
傍から見りゃ、ただのリーマンなんだろーけどな。
家に帰ると、バイトの終わった久保ちゃんが俺を待っていた。
「じゃーん!!」
ドアを開けた久保ちゃんの目の前で、体を反らし胸を張る。
久保ちゃんは吃驚したような、呆けたような目で俺を見て、
「眼鏡、結構似合うね」
それから改めて、
「どしたの?そのカッコ」
と聞いてきた。
俺は靴を脱いで久保ちゃんとリビングに向かいながらニッと笑う。
「滝さん家でさー、変装眼鏡みっけたから変装してみた」
「リーマンに?」
「そ」
ソファーにどさりと座ると、久保ちゃんは隣には座らず俺の目の前に立つ。
そして、ふーんとやる気なく相槌を打った。
「で、その服は誰の?」
「滝さんの」
「……へぇ」
「なー、カッコイイ?久保ちゃんに見せる為にわざわざ借りてきたんだぜ?」
「カッコイイけど……ねぇ」
久保ちゃんは身を屈めると、急に顔を近付けて、
「ムカツクかも」
ポツリと呟くと、荒々しいキスを仕掛けてきた。
いきなり獣に豹変したかのようだった。
「んンッ!!?」
とっさに体を押し戻そうとしたけれど、両手首をつかまれて逃げることが出来ない。
何で久保ちゃんが、こんな攻撃的なキスをするのかわかんなくて、足をバタバタと蹴り上げて抗議する。
それが効いたのか(しかしたっぷりねっとりと口内を弄い倒した上で)唇を離した久保ちゃんに、涙目でつっかかった。
「いきなり何すんだよッ!!借りた服が汚れんだろッ!」
俺は憮然としていたが、何故か俺より久保ちゃんのが全然不機嫌そうだ。
「汚れるのがヤなら、脱がせてあげる」
って、ホントに脱がそうとしてやがるし!
「そーゆー問題じゃねぇだろ!ヤメろ!さっきから何なんだよ一体ッ!!」
「あのさ」
一応手を止める久保ちゃん。
「お前が他の男の服を着てて、俺が嫉妬しないとでも?」
「……はぁ?」
「しかも、滝さんの目の前で着替えたんでしょ。襲われちゃったりしたらどーするの」
「滝さんが俺を襲うわけねーじゃん!!」
俺は笑い飛ばす。
「そーゆー問題じゃないんだってば」
まるでスネた子供だ。喉元のネクタイを弄るその手つきも、いじけているようにしか見えない。
……ホント、しょーもないヤツ。
まだ険阻な表情を崩さない久保ちゃんを笑った。
そして、まだ気の済まないこいつに、素直に押し倒されてやる。
「……バーカ」
「馬鹿で結構」
俺が久保ちゃんの眼鏡を外して、久保ちゃんが俺の眼鏡を外して、眼鏡の外しっこ。
「あんま、俺以外に懐かないでね」
「へーへー」
滝さん、こーなることを分かってたんだろーな。
別れ際の、意味深な『頑張れよ』を想い出す。
「……眼鏡、可愛いんだけどね」
ポイッと眼鏡を投げ捨てた久保ちゃんはそう言って。
先程とは比べ物にならない、優しく甘い口付けを、俺と交わした。
快楽の奔流に溺れそうになり、喘ぐ。
摩擦熱は脳髄を掻き乱し、汗でぬめるお互いの肌は密着していてもすり抜けてしまいそうに頼りない。
背中に爪を立ててしがみ付いた。
翻弄され頼りなく揺れる自我は底のない闇の中に落ちていきそうだ。
時折瞼に触れる唇の優しい感触でさえ、自分をその中へ突き落とそうとしているようで。
まして激しく打ち付けられる腰の動きが理性の留まりを許容する筈もない。
ひくっと喉を反り返らせる。
内側を穿って、脆さを暴いて、急所さえも曝させて、その上。
――自我を残すことさえも許さないのか。
爪を、立てる。
縋るためじゃない。
その隔たりの所在を分からせるために。
久保田が時任の喉を強く吸い、赤く散った痕を舐めた。
同時に強く突かれて、漏れた声は嗚咽のようだった。
余裕なく貪られながら時任は脳裏にぼんやりと浮かんだ、つい先刻、久保田とベッドの中で交わした言葉をなぞる。
「久保ちゃん」
「んー?」
時任の腰の上に跨り、ゆっくりワイシャツのボタンを外しながら久保田は間延びした返事を返した。
白い素肌がワイシャツの隙間から露わになり、久保田の骨ばった大きな手がそれをゆっくりと撫でる。
されるがままの時任は幾分熱を帯びた瞳で久保田を見上げた。
「俺は生きたい」
耳元に久保田は軽くキスを落とす。
「そーだね」
知ってる。
低く、甘く、睦言のように耳朶で囁かれる。
対して時任の言葉には、瞳や体に見られる火照りはなくただ淡々としていた。
「生きてぇよ。死にたくねぇ」
睦言などではなく。
そんな甘い言葉ではなく。
真摯で切実な、真実。
「ぜってー生きたい。けど、久保ちゃんが」
静かに時任の体にキスを繰り返す久保田の肩を掴んで、視線を再び時任の瞳へと戻した久保田を真っ直ぐ捕らえて、ただ淡々と。
その響きに悲痛さはない。
「キスでもセックスでも満足できなくなったら」
この肌という隔たりにさえ耐えられなくなったその時には。
「その時は、久保ちゃんの好きにしていいから」
久保田が優しい目をして笑った。
「ありがと」
この優しい瞳の下に巣食う飢餓を時任は知っている。
何時の日か、満たされた色を湛えるのかもしれないが、それを時任が見ることはありえなかった。
満たされる、その時は。
「ごめんね」
零れた謝罪の言葉は何に対してなのか。
今度は唇に落とされた口付けに応えながら時任は思った。
人間であることに対してだろうか。
どこまでもを際限なく望むことに対してだろうか。
ならお互い様だ、と。
びくんっと痙攣した拍子に鋭い爪が久保田の皮膚を裂き、一筋垂れた血が汗と交じり合って剥き出しの体を伝った。
久保田はそんな些細な痛みに気づいていないかのように、貪って、貪って。
穿たれる熱の膨張に、時任も自身が限界に近づいているのを感じる。
喘ぐ合間に愛してると呟いて、快楽に全て飲み込まれる覚悟を決めた。
違うもの同士だから重なる。
重なるから摩擦する。
摩擦から熱が生まれる。
熱が快楽を引き出す。
違う存在を重ねるだけ。
混じり合うことはない。
生きたいと言う言葉に偽りはない。
けれど一方で、違う本能も血を吐くように叫ぶ。
一つになりたい。
あらゆる境界を飛び越えて。
物理的な隔たりの内側で交じり合いたい。
それは叶わない願いで。
お互いが別個の存在としてこの世にある限り。
だから。
汚して
壊して
殺して
「久保ちゃん、もう一本ッ」
燃え尽きた花火を足下のバケツに放り込んで、次を時任はせがんだ。
右手に持った手持ち花火の束へ目を移し、どれを渡そうか一瞬迷う。
迷って、左手に火の付いた自分の花火を持っていることを思い出し、更に迷う。
「早く早くッ」
「ちょっと待ちなさいって」
結局、束のまま花火を差し出すと、時任は迷うことなく一番大きい花火を引き抜いた。
赤い薄紙の付いた先端を頼りなく揺れる蝋燭の炎に翳す。
揺らめきながら火は時任の花火に燃え移った。
躊躇うようにちろちろと僅かな炎が二、三度身じろいだ後、盛大に白銀の火花が吹き出す。
明るい閃光がワクワクと輝く顔を照らした。
猫目に火花が映り込んで。
凄く綺麗。
見惚れていると、俺の持っていた花火がその短い生涯を閉じた。
未だ煙の燻る棒を水の中に突っ込む。
ジュッという音だけを残して、完全に消える熱。
新たな花火を手に取ることなく火花と戯れる猫をただ眺めた。
「昼間はあっちぃけど夜はちょーどいい感じだな」
「そーだね」
白銀の火花は赤から緑へとその色を変化させ、時任の顔もそれに伴って赤や緑に染まる。
飛び散る火花の不規則な動きに併せて陰影がその形を目まぐるしく変化させる。
勢力的に炎を吹き出していた花火が終演に近づき、徐々に勢いを弱めそして。
消える。
一瞬にして訪れた静寂と暗闇。
白い煙と火薬の臭いが滞り。
停滞する夜気の中、溶けかけた蝋燭の炎だけが風でゆらゆらと揺らめいて。
「……」
「……」
身動ぎもせず、相手の姿形も覚束ないのにお互いの視線が絡むのが分かった。
目が暗闇に慣れると、睨むように俺を見る時任がぼんやりと浮かび上がる。
「……なんだよ」
「俺と花火した思い出だけならよかったのに」
腹の底から正直に言う。
言っても仕方のないことだと分かっているからこそ。
砕いて。
散らせて。
終わらせて。
この思いを。
この心を。
「しょーがねぇじゃん。これでも少ねぇ方なんだし、我慢しろよ」
拗ねたようにそう言って、花火の残り滓をバケツに入れた。
中を覗き込んで、ジュッと音がするまで律儀に確認してる。
少ないって?
表層に浮かんでるのは無いに等しいよ。確かにね。
でも、結局、無いわけじゃなくて沈んでるだけでしょ?
ソレに雁字搦めに縛られちゃってるじゃない。お前。
時任は無言で手を差し出した。
俺は右手の束から一番大きいのを選んで手渡す。
新しい花火に火を付けながら、それに、さ、と時任は言葉を続けた。
「後ろで支えてくれるモンがあるからグラグラしないで頑張れんじゃねぇのー?人間とかゆーのはさ」
閃光が迸る。
白い光の線が流れ落ち、空中で火花が爆ぜる。
時任はそれでゆっくりと宙に円を描いた。
「グラグラしたくねぇんだよ、俺だって。突然取り乱したりとかさー嫌じゃん」
「それ以上強くなってどーすんの、お前。俺が支えるトコロなくなっちゃうじゃない」
「最強だからな、俺様は」
俺の方を向いて、時任は笑った。
俺も笑う。現れたのは多分苦笑だろうけど。
「ま、俺だって嫌だけどさー。俺の知らない久保ちゃんの過去とか」
くるくると花火が回る。
光の輪が闇に浮かぶ。
永遠にループするかのような錯覚。
でも消える。
「そーゆー俺の気持ち知ってても言わねぇんだよな、久保ちゃんは」
与えることはせずに全部欲しがる俺を、時任は責めた。
でも、その表情は柔らかな笑み。
諦観と許容の証。
許容されていることを知っているからこそ、甘える。
知っている。
そしてそれすらも許容されていることを分かった上で、俺は尋ねた。
「狡いかな?」
「ずるいっつーかさ」
時任がニッと悪戯っぽく笑った。
「卑怯」
「あんま変わんなくない?」
「そーかもなッ」
そう言ったところで、光が途絶えた。
終わった花火をバケツに放り込んで、時任はまた新しい花火を俺にねだる。
俺は新しい花火を手渡す。
永遠のループ。
でも永遠には続かない。
終わればいい。
綺麗に。
君が終わらせてくれればいい。
そう思ってる僕は。
確かに卑怯だね。