INSOMNIA DIARY

時任可愛い

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Mさんへ
こんばんわ~(≧▽≦)
いや~Mさんにお願いされたとあっちゃ書かざるを得ませんね!了解です!
紅蓮は……こ、今年こそ……
アレは2003年から書き始めてるので、もっと……ですかね……
待っていて下さる方が居て、ホント有難いです……頑張ります!(`・ω・´)

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MONOPHOBIA~cynicism~

朝目覚めると、知らない男と裸で寝ていた。
余りに受け入れがたい現実に直面すると、人はかえって冷静になれるものらしい。
先ず自分の状態を確認する。
裸だ。
どうしようもなく裸だ。
素っ裸で毛布に包まっている。
……俺には裸で寝る習慣なんてねぇんだけど。
次に、隣で呑気に寝息を立ててる男に目をやる。
裸だ。
もうどうしようもなく裸だ。
何故か二人で一つの毛布を共有している。
有り得ない。
眠る男をよくよく見れば、鬱陶しい前髪の隙間から覗く顔立ちは意外と端整だったがそんなモンなんの慰めにもならなかった。
誰がどう見ても、俺がどう見ても、この男が起きたら後はモーニング珈琲でも飲むしかないだろうってな状況だった。
ありえねぇ。
昨日の記憶ねーぞマジで。誰なんだコイツ。どうしたんだ俺様。やっちまったのかオイッ!
頭を抱えたその時、隣の男がパチリと目を開けた。
青い顔で冷や汗を流す俺の顔を見て、にこりと笑う。
「おはよ」
その場違いにのほほんとした一言に、俺は完全にブチ切れた。
「誰だよてめぇえええええええッ!!!!!!!」
叫ぶ俺を余所に、ソイツはベッドサイドに置いてあったセッタを一本取り出して悠々と吸い始めた。
随分余裕だなてめぇ……
「俺は久保田誠人」
「名前なんか聞いてねぇ!」
「昨日名乗ったんだけど」
「覚えてねぇよ!」
「……もしかして、昨日のこと全部?」
「綺麗さっぱりな!!」
半ばやけくそでそう返すと、久保田誠人の顔に自嘲の様な暗い感情の影が過った。
しかしそれは一瞬だった。
「忘れちゃったんだ。酷いなぁ」
空々しく嘆いて、含んだ様な視線を俺に向ける。
「何が酷ぇんだよ」
「だって……ねぇ?」
はぐらかす様な返しに、俺は二度目の噴火を起こした。
「なんで俺が裸で!あんたも裸で!大して広くも無い俺のベッドで一緒に寝てたんだよオイッ!
かわいー女のコならともかく男だぞ男!説明しやがれッ!」
理不尽極まりなく不本意なこの状況の真相を知るのはこの男ただ一人だ。
是が非でも俺を安堵させるような説明をして欲しい。
モーニング珈琲だけは……モーニング珈琲だけは……ッ!!
シーツの上に突っ伏して煩悶していると、
「ちゃんと説明するからさ、とりあえず服着ていい?」
「……どーぞ」
このまま野郎と裸でベッドの上なんて死んでも御免だ。
それは相手も同じだったらしい。
「別に俺はこのままでもいいんだけどね」
「服を着やがれッ!!!」
喚くと、はいはいと笑って久保田誠人が上体を起こした。
精悍な顔つきに違わず、筋肉が引き締まった俗に言うイイカラダが露わになって、俺は思わず目を背ける。
胸板の厚みの違いに負けてるとか思った訳では決してない。断じてない。
ぎしりと軋むスプリングの音と遠ざかる足音。
久保田誠人がリビングの方へ消えたのを耳で確認して、俺はやっと顔を上げた。
アイツ、見ず知らずの男ん家をマッパで歩き回ってるのか……
何故か、今更顔が赤くなった。
プルプルと頭を振って、久保田誠人がいない間に急いで服を身に着ける。
昨日の着てた筈の服は見当たらず、新しいシャツを羽織った。
ボタンを留めながら記憶の失われた一夜を思う。
俺……まさかホントに……いやでもそうならもっと色々痛くなってる筈……頭は痛ぇけど……
でも、一回程度ならそう変化もないのかもしれない。
身体が馴れたから。
……無意識に男を家に引き込んだとか?
身体が、馴れちまったから?
「別に俺は好きでッ……」


好きで男に抱かれているワケじゃないのに。


「好きで……何?」
「どわぁあッ!!」
背後から囁かれて、俺の心臓は飛び出そうなくらい跳ね上がった。
足音なかったし!気配もねぇしッ!
「な……なんでもねぇよ!!」
バクバク五月蠅い心臓を押さえてぶっきらぼうにそう言うと、久保田誠人はそう、とだけ言って俺に押し付けるように珈琲を差し出した。
「飲む?勝手に淹れちゃった」
モーニング……珈琲……ッ!!?
ああ、やっぱりッ!!
再び頭を抱えた俺を、面白がってるような顔をして見て、くいっとリビングの方を親指で指す。
「百聞は一見にしかず。案ずるより生むが易し。とりあえずこっちおいで」
生むが易しは違うと思いつつ、久保田誠人の後をついて行く。
「ホラ、ね」
久保田誠人がドアを開けた先には、ビールの缶が乱雑に散らばった悲惨な状況のリビングがあった。
よく見れば、俺の着衣一式もぐちゃぐちゃになって散らばっている。
……リビングで既に脱いでたのか……オレ……
人のことは言えなかった。
「結論から言うと、君が思っていたようなことは俺達の間では何も無かった。飲み過ぎ故の悲劇ってヤツ?」
山のようなビールの空き缶と脱ぎ捨てられた俺の服。
確かに、これを見た後では久保田誠人の言葉が素直に信じられた。
寧ろそれ以外の顛末はあって欲しくない。
「よかった~~~~!」
俺は盛大に安堵の息を吐き、へなへなその場に崩れ落ちた。
目覚めてから始まった悪夢の数分。
漸く本当に目が覚めた感じがする。
しかし安堵のあまり脱力しきった俺を意地の悪そうな笑みで見下ろして、久保田誠人はまたとんでもないことを言い出した。
「安心するのは早いかもよ?ベットに入ってからの記憶、実は俺もないんだよね~。もしかしたら……」
「だーッ!!何言い出すんだてめぇッ!?」
オソロシイことを抜かす久保田誠人の言葉を慌てて遮る。
「お前だってヤだろ!?見ず知らずの男と寝たかもしんねぇなんて!!」
「イヤ別に」
焦る俺とは対照的にしれっとしている久保田誠人。
「だって俺、バイだし」
「ば……ばいぃいッ!?」
ヤダ。もう嫌だ。
思いっきり引きまくってる俺の方を呑気に眺め、久保田誠人は珈琲を啜りつつしみじみと回想する。
「時任可愛いし、脱がれた時誘われてるのかなー?と思ったんだよねぇ……」
まぁ、酔ってる子に手ぇ出すような狼さんじゃないからね、俺。と締めくくったが、男は所詮皆狼だ。
俺様よく無事だったな……ッ!
思わず信じても居ない神に感謝する。
「酒入ったら脱いで脱がせる癖、改めなね。俺が良心的だったからよかったものの、アブナイおじさん相手だったら犯されちゃうよ?」
「だ……誰が!!」
脱がせるとか犯すとかいう生々しい単語に、不本意にも赤面してしまう。
ん?
ていうか……?
「結局あんた誰なんだよ。なんでうちで飲むことになったんだ」
その説明がまだ足りていない。
「君が昨日、俺のことを拾ってくれたんじゃない。裏路地で」
久保田が平然と語った言葉からは凡そ現実味というものが抜け落ちていた。
「はぁッ!?拾った!?捨て犬じゃあるまいし!!」
「捨て犬だったんだよ、俺」
微笑む久保田。
……捨て犬。
比喩でもなんでも、嫌な言葉だ。
「俺が拾われた時は既に君は酔ってたみたいなんだけどね。家に着いてからも『飲め~』って言って飲み始めるから付き合って俺も呑んで、『脱げ~』って言って脱ぎ始めるから付合って俺も脱いで」
脱ぐなよ!!
つっこみたいのを必死で堪える。
コイツ……ぜってぇおかしいだろ……
この際、酔うと露出狂になるらしい自分のことは置いておく。
「で、そのまま寝ちゃった時任をベッドに運んで、俺も一緒に寝てたってワケ」
納得できない点は多々あったけど、何も無かったというならそれに越したことはない。
「……酔って迷惑かけたみてぇだな。悪かった」
落ち着くと申し訳なさが湧いて出て、目の前の男に素直に謝る。
記憶鳴くす程に酔っぱらった俺がこの男の前でどんな醜態をさらしたのか想像もつかなかった。
気まずいにも程がある。
出来れば一刻も早く俺の前から消えて欲しい。
「でも、拾ったとかはホント覚えてねぇんだ。わりーけどもう出てってくんね?」
「ヤダ」
駄々っ子のような言葉にカチンと来て、むきになって言い返す。
「何で!?」
「君が俺のことを拾ったんだから、最後まで責任持ってくれなきゃ」
その久保田誠人という男は、斜に構えたシニカルな笑いを浮かべてこう言った。


 


「俺を飼ってくれない?……ペットとして」

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二人分の空気だけ

善し悪しの問題ではないのだろう。


 


葛西は目の前に並ぶ背中を何とはなしに見ていた。
ふらりと訪ねてきた葛西に振る舞う為の料理を甥っ子とその同居人がせっせと作っている。
最も、葛西が訪ねてきた時には既に料理の最中だったから、自分達のついでに葛西の分もと言った方が正しい。
久保田と時任が二人で料理をする姿を見るのは初めてだったが、時折こんな風に狭い台所で肩を並べているのだろうかと、葛西はそんな事を思った。
この二人は此方が呆れる程に仲が良い。
一見して背格好も受ける印象も全く違う、正反対と言ってもいいような二人が何故こうも仲が良いのか。
時任は真剣にジャガイモの皮を剥いている。
その危なっかしい手つきを気に掛け、チラチラと視線をやる久保田の横顔が時折見える。
甥っ子は彼に対してだけ過保護で心配症だ。


仲が良いのは良いことだ。
二人の境遇を考えれば尚更。
だが、久保田が、以前には見せたことのないような目で彼を見るその眼差しに、安堵と不安が同時に襲ってくるのも事実だった。
甥っ子は望むモノを得て、満足しているように見える。
たった一人の存在だけで。
たった、一人。
しかしそれ故に、そのたった一人を失いそうになった時、喪った時、甥っ子がどうなるのか考えたくもなかった。


時任の包丁が大きく滑った。
ビクリと細い背中が揺れる。
あぶねー!!という叫びと、あ。という呟きが同時に聞こえた。
体の隙間からチラリと赤く光る指先が見える。
どうやら、指を切りそうになった時任の様子に気を取られた久保田の方が指を切ってしまったようだった。
葛西が何かリアクションをする前に、久保田の手を掴んだ時任はその血の滲む指をパクリとくわえた。
ごく、自然に。
生温かい口内で、舌が血を拭い傷を舐め上げているのだろう。
葛西は何故か、ギクリとした。
久保田は動じた様子もなく、時任の行動を当然のものであるかのように見ている。
消毒液や薬などといった現実的なモノは、二人の間には見当たらない。
自分の傷を自分で舐めて治す、そんな発想すらもきっとない。
彼らは互いの傷を舐め合って、そうやって痛みを甘さに変えて二人だけで生きている。
そんなことを思わせる光景だった。


 


葛西はこの部屋に居ることが急に居心地悪く感じた。
居心地の悪さは息苦しさとなって、喉や胸部を圧迫する。
窒息するかのような閉塞感だった。

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下僕×女王様

日頃、時任が俺の事を「鬼畜ッ!サドッ!変態ッ!」等と悪し様に言うもんだから、
「じゃあ時任が鬼畜になってみる?」
と提案し、時任と女王様ごっこをすることにした。
雰囲気を出す為に着せたボンテージファッションと鞭を見下ろして、時任は既にかなり嫌そうな顔をしている。
これからが楽しいのに。
「なんでこんなカッコしなきゃなんねぇんだよ……」
「女王様っていったら鞭とボンテージっしょ」
「っていうかなんで俺ら、こんなことやってんだ?」
「俺が『鬼畜になってみる?』って言ったらお前が肯いたからでしょ?なってみたかったんじゃないの?鬼畜」
なーんて、俺が女王様な時任に興味津々なだけだったりするんだけどね。
「……でも、なーんか違う気ぃするんだよなぁ」
小首を傾げてぶつぶつ呟く時任。
「折角だし、なんか女王様っぽいこと言ってみなよ」
「……えーと、俺のことは時任サマと呼べ!」
そう言って腰に手を当てふんぞり返った。
……なんてゆーか、単にいつもの時任だなぁ。
普段からこの子、王子様だしねぇ。
「で、他には何すんだ?」
「下僕に聞いちゃ駄目でしょ。足で踏み付けて鞭で叩いたりとかかな?」
「げぇーッ!なんだそりゃッ!変態じゃんッ!」
「そーゆーもんなんだって」
時任の足元に傅いて、右足を持ち上げ甲にキスをする。
途端にカッと時任の顔に朱がさした。
「ほら。足舐めろ、とか言ってみなよ」
固まった時任の右足をそのまま引っ張ると、上手い具合にソファーへと仰向けに倒れこんだ。
「うわッ……あッ……ッ!」
掴んでいる足の裏にねっとりと舌を這わせる。
敏感な時任はびくびくと肩を揺らしたが、構うことなく音を立ててキスをし、愛撫を加えていく。
「ヤッ……やめろよッ!久保ちゃッ」
「それは命令?女王様」
「てかッ!こ、これじゃいつもと変わんねぇじゃねぇか……ッ!」
時任が涙目で睨んだ。
体も声もふるふると震わせて、目じりを赤くして。
あー可愛い。駄目だ。


いじめたい。


薄い唇に噛み付くようなキスを仕掛けて、舌で口内を堪能する。
弱々しく抵抗していた腕から力が完全に抜けたのを確認して、鞭で後ろ手に縛った。
鞭の使用法が間違ってる気がしなくもないけど、なんかこの構図凄くクルんだよなぁ。
「ごめん。やっぱ俺、鬼畜の方が向いてるわ」
服を脱がしながら一人ごちる。


愛しいから守りたいし、大事にしたい。
それは当たり前なんだけど、一方で、愛しいからこそ苛めたい、そういう感情もまた俺の中に歴然と存在する。
この感情に起因するものはなんなんだろう?
好きな子を苛めたいなんて我ながら子供っぽいと思うんだけど。
恐らく、そうやって俺は時任に甘えている。
何をしてもお前が俺のことを好きでいてくれるか、こんな方法で確かめている。
罪を犯しても、許されるなら心地いい。
苛めることでしか愛情を表現出来ない思春期前の男子学生のように幼稚な恋の仕方。
でも、それもいい。
相手が時任なら。
そんなことを考えながら、俺は甘い体温と存在感に溺れていった。


「この鬼畜野郎――ッ!」
「はいはい」

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晴れの日に傘をさす人1~擦過傷/slightfever ~

 


始まりは放課後、校舎裏。


 


「……ふぁ」
眠いなぁ。
歩きながら欠伸を一つ。
雨上がりでもないのに、日の当たらない校舎裏は何時でも湿った空気で澱んでいる。
散歩するのにあまりいい環境とはいえない。
こんな所に屯する連中の気が知れないよねぇ。
放課後、俺は執行部の校務の一つである校内巡回に勤しんでいた。
一人だし、散歩も巡回も似たようなものだ。
巡回は二人一組が基本だけど、マイペースでサボり魔な俺は必然的に一人で行動することが多かった。
戦力的には差し支えないし、実力の拮抗しない相方なんて邪魔なだけ。
「第一校舎は異常なーし」
独り言ちて、第二校舎の方に回る。
無駄に敷地が広いのも考え物だ。
執行部の腕章を付けるのも久しぶりだし、この巡回路を回るのも久しぶり。
学校に来たこと自体が久しぶりだからなんだけど。
学生を自称するのが申し訳ないほど出席日数ギリギリにしか登校していない。
高校もエスカレーター式だったから何となく入っただけだし、執行部も何となく。
それなりに楽しい時もあったけど、今一つ物足りない感も否めなかった。
まぁ、生まれてこの方満たされた事なんて無いけど?
心を揺さぶられるようなことも。感情を掻き立てられるようなことも。
好きなものも嫌いなものも。
大切なものも、何も。
校舎裏に差し掛かった辺りで複数人が争うような声が聞こえた。
んー、喧嘩の気配。
元が男子校だったせいか血気盛んな連中が多くて、喧嘩乱闘は日常茶飯事。
だからこそ執行部の存在意義がある。
悪い子はお仕置きしなきゃねぇ。
ひょいと角から覗き込むと、丁度乱闘が始まったトコらしかった。
先ずは遠巻きに観察して状況を把握する。
一人二人三人……九人かな?
わぁお、一対八。
集団リンチ?
たった一人を八人で取り囲んで寄ってたかって殴る蹴るの暴力を加えているようだった。
一人で戦ってる生徒は周りが邪魔なのと激しく動いてるのとで良く見えない。
一人に大勢ってのはどういう理由があっても良くないっしょ。
「ちゅうもーく。執行部だけど」
とりあえず平和的解決を試みようとしてみたけど、興奮してる彼らの耳にはイマイチ聞こえてないみたい。
まぁ、想定内。
仕方ないから一番近くに居たヤツを問答無用で蹴り飛ばした。
それで漸く何人かは俺の存在に気づいて、
「執行部だッ!」
なんて仲間と目配せし合って、俺が一人なのを確認すると殴りかかってきた。
それを御座なりにあしらいながら、一人で戦ってる生徒の方の方に目をやる。
そして、僅かに瞠目した。
リンチじゃない。
黒髪のその子は、八人を向こうに回して互角以上に渡り合っていた。
いや、下手すると圧倒してるかも。
三、四人から次々と繰り出される拳や蹴りを危なげなく避けて、逆に殴り返している。
猫科の動物のような、俊敏な動作。
何より、これだけの人数を相手にしてまるで動じてる様子がなかった。
並の強さじゃない。
こんな子いたかな?
喧嘩っ早い生徒は執行部が把握してる筈なんだけど。
「よけーなことすんな!」
突然の乱入者に気づいて、彼は怒鳴った。
怒鳴るだけでこっちは見ない。
流石にそんな余裕はないようで、休み無く手足を動かしていた。
既に二人ほど沈んで足元に転がっている。
それらに足を取られないように気をつけながら、
「公務執行してるだけだし?」
しれっとそう言い返す。
彼はちっと舌打ちを一つして、それ以上何も言わずに迫り来る拳と足に集中し出した。
苦戦はしてないけど余裕はないって感じ?
頭に血が上った奴らの拳を避けたり足を引っ掛けて転ばせたりして一応戦いながらも、俺の関心はもう完全にその子一人に向いていた。
おー。綺麗な回し蹴り。
雰囲気といい身の熟しといい、見れば見るほど猫に見える。
華奢な痩躯から繰り出される、早くて鋭い拳。
力任せに見えて、確実に急所に攻撃を当てている。
無駄のない攻撃で反撃の余裕を与えることなく相手を戦闘不能にしていた。
可愛い顔に似合わず容赦のない戦い方してるな。
それにしても、加勢みたいな感じになっちゃったけど、喧嘩両成敗が基本だしどうしよっかなぁ。
そう思ってるうちに、彼が最後の一人を気絶させて、この場に立ってるのは二人だけになった。
俺は一人か二人沈めただけだ。殆どが彼の戦果。
所要時間、二十分強。
ホント、強い。
彼と戦うのも面白いかもなぁなんて思いながらとりあえず声を掛けようとした、その時。
肩で大きく息をしながら立っていたその子は地面にがくりと膝を付いた。
胸の辺りを鷲掴んでそのまま蹲ってしまう。
「どーした?」
見たところ外傷はないようだけど。
歩み寄ってそう声を掛けても返事は無く、異様な呼吸音が微かに聞こえる。
ひゅうひゅうという、空気の漏れる音のような。
良く見ると、上手く呼吸が出来てないのか小刻みに震えていた。
明らかに様子がおかしい。
「胸苦しいの?」
面倒だけど保健室に連れてった方がいいのかな?
「……ッせぇ」
応じる掠れた声がして、荒い呼吸のまま彼は上体を起こした。
額には汗が光っている。
揺れる前髪の隙間から初めてその目が俺を見た。 
心臓が軋む。
射抜くような眼差しに、胸を鎖で締め付けられるような痛みを感じて言葉を失った。
ただ真っ直ぐぶつかってくる視線。


揺さぶられた


強い光を湛えた黒い瞳は、すぐにふいっと俺から外された。
立ち竦む俺の前で彼はよろよろと立ち上がると、
「……誰にも……言うんじゃねぇぞ。言ったら殺すかんな……ッ」
自分が死にそうな顔をして一言そう言い残し、俺の前から歩み去っていった。
彼に何か言いたくて、でも何を言いたいのかもわからなくて、逡巡してる内にその姿は校舎の影に消える。
突っ立ったままその背中を見送って、俺は自分の心臓の辺りに手をやった。
……さっきの何だったのかな?
宛ら銃弾で心臓を撃ち抜かれたような衝撃。
そして今も疼くような痛みが胸の中に残っている。
体の中で響いてる甘い余韻は消えそうに無い。
死屍累々の中で一人首を傾げた。


 


……ナニコレ?

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