時任可愛い
「だぁー!また負けた!」
対戦台の向こうからそんな大声がして、ガンッという音と共に筐体が揺れる。
台に当たるのはやめなさいって。
「絶対何か裏ワザ使っただろ!!」
筐体の陰からぴょこんと顔を出したのは大きな猫目を勝気に光らせた男の子。
華奢で背も低いから、グレーのブレザーを着ていなきゃ中学生には見えなかったかもしれない。
「使ってないよー?いつも言ってるじゃない。相手の癖やパターンも読まないと勝てないって。単なる時任の読み負け」
悔しそうに俺を睨む時任に口角を上げる。
「俺の心を読まなきゃ勝てないよ」
「そんなもん読めねぇっつうの……」
ぷぅと膨れたほっぺたをつつく。柔らかい。
ますますむくれる時任にクレーンで取ったチョコを献上するも、王子様のご機嫌は未だ斜めの様だった。
両替機の前のベンチに並んで座る。
「そんなに拗ねなくてもいいじゃない。強くなったって」
騒々しいゲームセンターの中。
会話はきっとお互いにしか聞こえない。
咥えた煙草からふぅと紫煙を吐き出して、チョコを齧る様を横目に見た。
「お兄さんになら勝てると思うよ?」
「……兄ちゃんは、ゲームなんてしねぇよ」
途端にしょんぼりと肩を落とす小さな体。
分かりやすいなぁ。可愛い。
ここ1ヶ月程の付き合いで、俺は時任に兄が居ることも、時任がかなりのブラコンなことも、社会人になって忙しくなった兄に構われない寂しさをちょっとした反抗期で誤魔化していることも、全部知ってる。
「時任」が偽名なことも知ってるけど、知ってることは内緒。
俺がお前にどれだけ興味津々かなんてまだ知らなくて良いよ。潮稔君。
一ヶ月前に今日と同じ筐体で対戦して知り合った中学生。
年の差なんて関係なく意気投合してすっかり仲良くなった俺たちは、毎日の様にこのゲームセンターで一緒に遊んでいる。
一回り以上年下の男の子にこんなに夢中なんて、ヤバいね。俺も。
「今日も、サンキュな。付き合ってくれて」
チョコを食べ終わってご機嫌が直ったのか、いつもの様にお礼を言われる。
「俺が時任と遊びたいだけっていつも言ってるじゃない」
要らないって言ってるのに律儀に礼を言うのはご両親の教育の賜物かな。
どんなに盛り上がっても、夕食前にはちゃんと帰るし。
でも、ネクタイは俺の真似をして弛める様になった。
初めて会った時はあんなにかっちり制服を着てたのにね。
最近覚えた、自分色に染める快感って奴に内心舌舐めずりする。
大事に大事に育てられた温室の花。
もっともっと、汚したい。
「時任は良い子だなぁ」
咥えていた煙草を携帯吸い殻に捻じ込みながらそう言うと、途端に機嫌悪そうに顔を顰めた。
「子供扱いすんな!良い子じゃねぇよ、寄り道してるし、ゲーセン来てるし」
寄り道ごときで悪いことした気になっているのが良い子の何よりの証なんだけど、そんなことを言いたい訳じゃないから敢えて指摘しない。
「子供だよ。したことないでしょ?」
「何を……」
ワザと挑発するように言えば、時任は眉をきりりと上げて俺を睨み、望む通りの反応を返す。
可愛いなぁ。
内緒話をするように耳に唇を寄せて、直接言葉を吹き込むように低く囁いた。
「セックス」
「はぁッ!?」
目を真ん丸にしてがばりと顔を上げた時任は一瞬で顔を真っ赤に染め上げると、口を鯉の様にぱくぱく開閉させる。
時任のそんな様子に構わず、しれっと続けた。
「それじゃあ大人とは言えないなぁ」
俯いて黙りを決め込んだ時任の熟れた耳朶に追い討ちの様に言葉を落としていく。
「……教えてあげようか?」
ゲームみたいに。
簡単だよ?
気持ち良いだけ。
真っ赤な頬を両手でそっと挟んで、顔を上げさせる。
熱い体温が心地良い。
揺れる前髪の隙間から除く瞳には疑心と強固な常識、己を育む温室へのちょっとした反抗心が見てとれる。
時任は頷かないだろう。
賢い子だ。
ミエミエの蜘蛛の巣にきっと気づいている。
それでも子供の肥大した好奇心を刺激され続けて、いつまでその常識の縁に留まっていられるかな?
良い子の時任。
好奇心に殺されて、悪い大人の浅はかな罠に早く飛び込んで来てよ。
対戦台の向こうからそんな大声がして、ガンッという音と共に筐体が揺れる。
台に当たるのはやめなさいって。
「絶対何か裏ワザ使っただろ!!」
筐体の陰からぴょこんと顔を出したのは大きな猫目を勝気に光らせた男の子。
華奢で背も低いから、グレーのブレザーを着ていなきゃ中学生には見えなかったかもしれない。
「使ってないよー?いつも言ってるじゃない。相手の癖やパターンも読まないと勝てないって。単なる時任の読み負け」
悔しそうに俺を睨む時任に口角を上げる。
「俺の心を読まなきゃ勝てないよ」
「そんなもん読めねぇっつうの……」
ぷぅと膨れたほっぺたをつつく。柔らかい。
ますますむくれる時任にクレーンで取ったチョコを献上するも、王子様のご機嫌は未だ斜めの様だった。
両替機の前のベンチに並んで座る。
「そんなに拗ねなくてもいいじゃない。強くなったって」
騒々しいゲームセンターの中。
会話はきっとお互いにしか聞こえない。
咥えた煙草からふぅと紫煙を吐き出して、チョコを齧る様を横目に見た。
「お兄さんになら勝てると思うよ?」
「……兄ちゃんは、ゲームなんてしねぇよ」
途端にしょんぼりと肩を落とす小さな体。
分かりやすいなぁ。可愛い。
ここ1ヶ月程の付き合いで、俺は時任に兄が居ることも、時任がかなりのブラコンなことも、社会人になって忙しくなった兄に構われない寂しさをちょっとした反抗期で誤魔化していることも、全部知ってる。
「時任」が偽名なことも知ってるけど、知ってることは内緒。
俺がお前にどれだけ興味津々かなんてまだ知らなくて良いよ。潮稔君。
一ヶ月前に今日と同じ筐体で対戦して知り合った中学生。
年の差なんて関係なく意気投合してすっかり仲良くなった俺たちは、毎日の様にこのゲームセンターで一緒に遊んでいる。
一回り以上年下の男の子にこんなに夢中なんて、ヤバいね。俺も。
「今日も、サンキュな。付き合ってくれて」
チョコを食べ終わってご機嫌が直ったのか、いつもの様にお礼を言われる。
「俺が時任と遊びたいだけっていつも言ってるじゃない」
要らないって言ってるのに律儀に礼を言うのはご両親の教育の賜物かな。
どんなに盛り上がっても、夕食前にはちゃんと帰るし。
でも、ネクタイは俺の真似をして弛める様になった。
初めて会った時はあんなにかっちり制服を着てたのにね。
最近覚えた、自分色に染める快感って奴に内心舌舐めずりする。
大事に大事に育てられた温室の花。
もっともっと、汚したい。
「時任は良い子だなぁ」
咥えていた煙草を携帯吸い殻に捻じ込みながらそう言うと、途端に機嫌悪そうに顔を顰めた。
「子供扱いすんな!良い子じゃねぇよ、寄り道してるし、ゲーセン来てるし」
寄り道ごときで悪いことした気になっているのが良い子の何よりの証なんだけど、そんなことを言いたい訳じゃないから敢えて指摘しない。
「子供だよ。したことないでしょ?」
「何を……」
ワザと挑発するように言えば、時任は眉をきりりと上げて俺を睨み、望む通りの反応を返す。
可愛いなぁ。
内緒話をするように耳に唇を寄せて、直接言葉を吹き込むように低く囁いた。
「セックス」
「はぁッ!?」
目を真ん丸にしてがばりと顔を上げた時任は一瞬で顔を真っ赤に染め上げると、口を鯉の様にぱくぱく開閉させる。
時任のそんな様子に構わず、しれっと続けた。
「それじゃあ大人とは言えないなぁ」
俯いて黙りを決め込んだ時任の熟れた耳朶に追い討ちの様に言葉を落としていく。
「……教えてあげようか?」
ゲームみたいに。
簡単だよ?
気持ち良いだけ。
真っ赤な頬を両手でそっと挟んで、顔を上げさせる。
熱い体温が心地良い。
揺れる前髪の隙間から除く瞳には疑心と強固な常識、己を育む温室へのちょっとした反抗心が見てとれる。
時任は頷かないだろう。
賢い子だ。
ミエミエの蜘蛛の巣にきっと気づいている。
それでも子供の肥大した好奇心を刺激され続けて、いつまでその常識の縁に留まっていられるかな?
良い子の時任。
好奇心に殺されて、悪い大人の浅はかな罠に早く飛び込んで来てよ。
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