掻き毟りたい、この瘡蓋を。
理由なんて、雨が降ってるからでいい。
「ちょっとどいて?」
ゲームをしていた時任は、横に立つ俺を見上げて不機嫌そうに眉をしかめ、しかしちゃんと横にずれる。
「そうじゃなくて」
「は?」
ずずっと時任の体を前に押し出す。
ソファとの間に出来た隙間にどっかり腰を下ろすと、時任を後ろから抱き締めた。
「……何だよ」
「後ろ抱っこ」
「……………」
俺を無視してゲームを再開するけど、時々ギュッと力を込められる感触が邪魔になったのか集中できなくなったのか(まぁ確信犯なんだけど)コントローラーを放り出した。
ガチャンッ――音を立てて落ちる。
壊れるよ?そうは言わず、更にキツく抱き締める。
時任は溜め息をついて、俺の頭を軽く撫でた。
それは、優しい優しい感触。
傷に瘡蓋を被せるような。
そう、瘡蓋だ。まるで。
痛みも、傷ついたことすらも認識できず、故に瘡蓋も出来なかった傷口に一つ一つ時任は瘡蓋を被せていく。
出血もせずただぽっかりと空いていた穴は、今、少しの痛みと共に沢山の血を内包している。
傷を負わない人生はないけれど、時任が居る限りそれらには全てちゃんと瘡蓋で守られる。そんな気もする。
もしかしたら、傷だらけ穴だらけの心はいつか綺麗に癒えるのかもしれない。
少なくとも時任は、そう信じているのだろう。
でも知ってる?時任。
瘡蓋ってとっても痒いんだよ。
「久保ちゃんってホント、後ろから抱きつくの好きだよな―」
時任が笑うのを触れる肌から感じた。
正面から抱き合いたいなんて思ってもいない癖に。
心を満たせば体も満たされる、そんな風に考えてるワケ?
後ろで抱き締めている俺が何考えてるか知りもせずに。
後ろから抱き締める事しか出来ない俺が何したいか知りもせずに。
っていうか、俺が絶対お前にそーゆーこと思う筈ないなんて信じちゃってるんでしょ。
この瘡蓋が何時か綺麗に癒えると信じているように。
そう。剥がれた瘡蓋は血を吹き出し、僕を血まみれにするだろう。
君を傷付けた僕は多分、そんな姿で笑うに違いない。