時任可愛い
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暑いってどういうことだったかなぁ。
と、考えている。



「暑い」
耳元で聞こえた言葉は唸るように放たれた。
同じタイミングで首筋に触れた吐息は、体温を多分に含んでいた。
恨み言を言うかのように、背筋に回された腕に力が籠る。
クーラーの切れた寝室の温度は快適とは程遠い。
ただそこに居るだけで肌に汗が滲んだ。
「暑い」
俺はベッドに腰掛けている。
時任は、俺の膝に乗って正面から抱き着いている。
お互い裸だ。
上半身は。
時任は、俺の背中にしがみつくように腕を回している。
俺は、時任の腰にゆるく腕を回している。
「暑い」
何度目かの文句を口にして、時任は俺の肩口に額を押し付けた。
もうずっと恨みがましく暑い暑いと言っているけれど、時任は別に誰に(俺しかいないけど)強制されたワケでもなく、自発的に己の意思でもって俺に抱き着いている。
クーラーをつけろとも言わない。
ただ、暑いとだけ口にしている。
そして俺は黙って抱き着かれている。
時任の、言葉の意味を考えながら。
「暑い」
肩口に顔を埋めている時任の顔は勿論見えない。
触れる吐息。
触れている肌。
滑る汗。
筋肉の伸縮。
心臓の拍動。
そういったものを全部肌で感じている。
皮膚という末端神経だけで認識する時任の存在はまるでマグマのようだった。
脈動する熱の塊。
背筋を汗が伝い落ちる。
「暑い」
暑いってきっとこういう状態のことを言うのだろう。
時任がそういうのなら。
他人の体温を灼熱のように感じて、呼吸をするだけで身体の水分を汗として放出する状態。
脳だってマトモに働いているようには思えない。
それこそダラダラと文句を連ねたくなるような。
でも、だったら、なんでお前は俺に抱き着いているんだろう。
「暑い」
汗に濡れた肌の密着はその水分を媒介により強く、擦り合わせれば擦り合わせる程溶け合うように肉体が近付く感じがした。
何時もより熱く感じる体温は嫌になるくらいそれに意識を集中させて片時も離そうとしない。
物理的な接近は精神をも近付けさせるのかとそんなことに思い至って妙に可笑しくなる。
ああ。
暑いって。



「気持ち良いなぁ」



腕に力を込める。
汗に濡れた肌を撫でると腕の中の身体がびくりと震えた。
何だってお前が全部教えてくれる。
暑さも、暑いのに抱き着いていたい訳も。



「暑い」
「うん」



そして世界に二人しかいらないということを。

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