時任可愛い
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時任の頬を思い切りひっぱたきたくなった。
やや小振りな顔の、あの白い頬に思い切り手の平を打ち付けたら。
拳で殴るのとは違う、手の平に満遍なく伝わる衝撃と水を叩くような感触。
黒い髪が乱れて、ぐらりと揺れる体躯。
頬は真っ赤に腫れ上がって、目元も赤くなって、可愛いかもしれない。
切れた唇は、舐めたら痛がるかな。
泣きはしないだろうけど、凄い目で睨まれるだろうね。
もし泣いたら、それはそれでかなり可愛いだろうけど。
そしてきっと、俺の手はじんじんと熱く疼き続けるんだろう。
多分痛い。
多分、興奮する。

(そういえば痛め付けられる時の時任を、その目を、俺は見たことがないのだ)

怪我ばっかりする癖に。
俺が目にするのは、俺以外の何かに付けられた傷を絆創膏や包帯で覆って、傷付けられる前と何一つ変わらない強さで笑う姿だけ。
あるのは結果。
足りないのは過程。
そして、俺という原因。

(俺の知らない時任がいるという飢餓感)

(それが満たされる昂揚感)

多分俺は、傷付く時任が、それ程嫌なワケではない。

(強いお前が、どんなに打ちのめされても)

(それでも立ち上がる姿はかなり魅力的)

(世界一ね)

お前が傷付かなければ、なんてどの口が言うんだろう、ホント。
俺が傷付ける時には、例えどんなにズタズタにしても(最期には)ごめんねの一言で済ます自覚が俺にはある。
結局、

(結局)

俺以外に傷付けられる姿が見たくない。
ただそれだけの意味。

(つまり?)

過剰な独占欲と、どんな時任も好きだというありふれた恋心。

(どんな風になっても可愛いお前も)

(どんな風になってもお前が好きな俺も)

(困り者だね)

「久保ちゃん、何考え込んでんだよ」
隣で漫画を読んでいた時任はそう言って、こちらに身を乗り出した。
構われたくなったのか、俺が持っていた麻雀雑誌を取り上げ、ぐいと顔を覗き込んでくる。
先ず惹かれるのは猫目。
次に首。
そして、これみよがしに晒された(これみよがしに、なんて勝手な錯覚)頬。
ここぞとばかりに手を伸ばす。
温かな頬に触れる。
撫でた感触は、嫌になるくらい気持ちいい。

















「時任が好きだなぁって、考えてただけ」

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