時任可愛い
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我輩は犬である。
名前をミナトという。
佐藤老人のお世話になっており、神奈川郊外に二人で慎ましやかに暮らしている。
毎日、決まった時間に決まった公園へ散歩に行くのが日課だ。
最近その公園で一人の少年と出会った。
名を時任と言うそうだ。
歳は二十歳前後だろうか。
何時の頃からか、公園で私と戯れたり、佐藤老人と雑談を交わす仲となった。
彼は、とにかく可愛い。
あまり犬と触れ合った事がないらしく、私が尻尾を振って駆け寄るだけで嬉しそうに笑う。
その笑顔に私も嬉しくなって、ついつい飛び着いてしまう。
私は彼が大好きである。
佐藤老人も、彼との逢瀬を楽しみにしているようだ。
しかし、彼は不思議な子である。
仕事や学校に行っているそぶりがないし、何時も「久保ちゃん」なる人物の話しかしない。
その人物の匂いしかしないし、匂いから察するにその久保ちゃんとやらは男のようだ。
何時も皮手袋を嵌めている右手の匂いも気になる。
彼は不思議な子だ。
だが良い子だ。
態度にも表情にも嘘がない。
犬の私にも全力で向かって、全力で遊んでくれる。
とても無邪気だ。
その正直なところを佐藤老人も気に入っているらしい。
また、彼は随分と敏感だ。
顔や耳、首元を舐め回すと顔を真っ赤にしてびくびくしてしまうし、勢い余って股間に飛びついてしまった時の慌てっぷりは非常に初々しくて、可愛かった。
私がもう少し大型の犬であれば、押し倒して乗っかって、好きなだけ舐め回すことができただろう。残念である。

私は彼が大好きだ。

先日、夢を見た。
私は人の姿で、公園のベンチに座っていた。
視線の先には時任と、知らない男がいた。
時任といる男は眼鏡をかけた背の高い男で、何かを囁き、時任の頬にそっと掌を当てた。
その動作一つに何かぞっとする程の並々ならぬ感情が篭っていて、私は怖くなる。
しかし当の時任は少しも気圧されることなく、極自然に手を重ね、頬を擦り寄せた。
その時の表情は、私や佐藤老人に見せたことのない顔だった。
無邪気さなど何処にも無かった。
彼は全てを知って、分かっていて、それでもそうして立っていた。
二人の立っている半径1m以内の狭い円は世界から隔絶されていて、その隔たりは人と犬とのそれ以上だった。

目が覚めて、何故か悲しくなって、私はクゥンと鳴いた。

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