「んッ……」
煙草くせぇ……
深く沈んでいた意識に煙草の匂いが引っ掛かって、眠りの淵から引き上げられる。
体の下が妙に温かく、気持ち良くて無意識に頬ずりをした。
ふわふわとした心地のまま何故こんなに温かいのか考える。
……俺、どこにいるんだっけ。
瞼を押し上げる。
薄く目を開くと、ピントが合わない程近くに白い物体があった。
瞬きを繰り返す。
「あ、起きた?」
頭上から柔らかい声がして目線を上げると、眼鏡の男とバッチリ目があった。
誰。
っていうかこの状況って……?
寝ぼけた頭のまま、妙にスースーするなぁと思い視線を下げる。
裸だった。
全裸だった。
一瞬で覚醒する。
「ちょッ、俺なんで真っ裸なんだよ!!」
悲鳴のような声で叫んで、ばっと体を起こすと辺りを見回す。
狭い部屋の中、ベッドの上で全裸の俺と眼鏡の男は一緒に寝ていた。
温かかったのは眼鏡男の体温だ。自らすり寄ったことを思い出して鳥肌が立つ。
なんだこの状況!?
ここには俺と眼鏡の男の二人しかいない。
俺に自ら裸になった覚えがない以上、コイツが俺を裸に剥いたのだろう。
その上、ベッドに寝かせて……
へ、変態だ、コイツ絶対変態だ!!
俺様が寝てるのを良いことに、変なこと色々するつもりだったに違いない!!
いや、もしかしたらもうされたのかも……ッ!!
よくも世界一の美少年である俺様の体に!!
ぜってー殺すッ!!
「んー確かにこの状況だと弁解の余地はないんだけど……」
変態はのほほーんと頭をかいて、
「俺をベッドに引きずり込んだのは、ソッチよ?」
と、胸元を指し示した。
指差す先には、ソイツのワイシャツをしっかり掴んでる、俺の右手。
「……ッ!!」
慌てて手を離して、ソイツを睨みながら後ずさる。
勿論、シーツで前を隠すことも忘れない。
目に付いた異形の右手とか、すっからかんな俺の記憶とか、逃げろとうるさい心の声とか気にすべきことは山程あったけど、今この瞬間の危険を乗り越えるのが先決だ。
「そんなに警戒しないで欲しいなぁ」
変態は楽しそうにそう言いながら躙り寄ってくる。
「よ、寄るなッ!!」
「裸で一緒に寝た仲じゃない」
裸だったのは俺だけだッ!!
壁に張り付いて限界まで離れようとする俺を見て、変態は動きを止めた。
右手じゃなくて、俺の目を、覗き込むように。
「ああやって、寝ぼけて誰かに抱き付く癖でもあるの?」
その視線は何故か、とても真摯なものだった。