時任可愛い
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猫は気まぐれだ。

ぼすん。
ソファーに腰かけ、熱心に漫画雑誌を読んでいた時任は、そのままの状態で勢い良く隣に座っていた久保田にもたれ掛かった。
久保田の肩に時任の頭が、腕に首筋と背中が、ぶつかって密着する。
見ていたテレビ番組から時任の方に、久保田は視線を移した。
久保田からは、時任の表情は見えず、つむじは良く見えた。
殆ど無意識に手を伸ばして頭を撫でようとしたが、
「触んな」
そんな短い一言で、拒絶されてしまう。
しかし声色には笑いが含まれていた。
触れたいが、触れられたくない気分なのだ。
様は、甘えているのだった。
しかし駄目と言われれば余計に欲求が膨らむのが人の性で、時折直に触れる肌や、布越しの体温に、テレビ番組どころではなくなってくる。
触られるの、嫌いじゃないくせに。
心の中で独り言ちる。
擽ったがりはするが、基本的に時任は、久保田になら、触られるのは嫌いではなかった。
髪を梳かれて気持ち良さそうに目を細めるし、頬を撫でると微かに笑う。
ただ、気まぐれなのだ。
時任がもぞもぞと動き、猫っ毛が久保田の腕を擽る。
この髪は真っ黒な癖して細く、触ると柔らかいのだ。
やがて時任は眠くなったらしく、漫画雑誌を放り出し、久保田から身体を離してソファにごろんと寝転がった。
柔らかな体温が消失し、やけに寒々しく感じる。

猫はとても勝手だ。





肌に刺さる視線を敏感に感じ取り、時任は目を開けた。
隣を見遣ると、久保田はじっと時任を凝視していた。
テレビは既に切られている。
シンとした部屋で、久保田の視線だけが音や、色や、重さや、熱や、色んなものを含み、時任の五感を刺激する。
「……何見てんだよ」
負けじと睨み付ける。
「だって触らせてくれないから」
見てるだけ。
久保田は微笑んだまま微動だにせず、本当に、ずっと、微動だにせず時任をただ見続けている。
時任は堪らず眼鏡を奪って視力を取り上げるという強行手段に出たが、それは逆効果でしかなかった。
録に見えていない筈の目で、なのにしっかりと視線を絡ませ、身体の輪郭を正確になぞり上げる。
眼鏡という隔たりがない分、錯覚ではあろうが、より生々しくその視線を感じた。
「見えてねぇだろ」
「見えるよ」
久保田は嘯く。
時任はとうとう音を上げた。
久保田の手を取って、
「触って、いいから」




猫は気まぐれで、とても勝手で、そして凄く可愛いのだ。

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