時任可愛い
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両足の腿を撃ち抜かれて全身が大きく痙攣した。
絶叫は辛うじて飲み込んだが、ひゅうッという、瀕死の人間が漏らすような呼吸音を止めることは出来ない。
反射的に傷口を手で押さえようとしたが、激痛ばかりで両腕はぴくりとも動こうとしない。
いつだったか、この右手を封じる為にピアノ線で縛った馬鹿がいたが、折ってしまえば、確かに右手の怪力なんてなんの役にも立たない。
しかしえげつない。
こんなえげつないことを思い付き、且つ実行してしまえるのが久保田という男だ。
時任は、妙に冷静に現状を分析していた。
久保田が冷静でない時は、大抵、時任は冷静になるのだった。
ということは、今の久保田は冷静ではないのだろう。
血が、だくだくと流れている。
シーツが赤く濡れて、生臭く鉄臭い臭いが部屋に充満している。
久保田は手にしていた銃を無頓着に放り投げて(それを危ないなと考える時任はやはり冷静だった)同じく手を持っていた包帯で、時任の足を止血の為にぐるぐる巻きにした。
弾は、多分貫通している。
動脈を傷付けてもいない。
久保田はそうなるように撃ったのだろうか。
久保田は、急所は知っていても、致命傷にならない場所なんて知らない筈なのに。
「元気に走り回ってる時任が好きだよ」
唐突に久保田は口を開いた。
「笑ってる顔が一番好きだし、苦しそうな顔させたくないし、悲しい顔も見たくない」
脂汗がびっしりと浮かんだ時任の額を優しく拭い、髪を指で梳く。
「ゲームやって笑ったり怒ったり、カレーに文句言ったり、右手で人を殺すこともある時任が、好きだよ?」
両手両足が使い物にならず、ただ荒い呼吸を繰り返す時任には久保田と目を合わせる事しか出来ない。



「でも、どんな時任も時任だよね」



その目は、いつも通りで。

「どんな時任も、好きだよ」

格別、狂気に呑まれている訳でもなくて。

「歩けなくなっても、動けなくなっても、目が見えなくなっても」

最初からそうだったというだけだ。
きっとずっと知ってきたのに。
何故、自分は抵抗しなかったのだろうとそればかりを考える。

「俺なしじゃ生きられなくなった時任も、好きだよ」

手が、迫ってくる。
薄い布が目の周りを覆って、何重にも巻き付けられた。

「お前のことは、俺が全部してあげるから」











世界が闇に閉ざされた。

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