去年、時任の誕生日を9月8日に決めたワケなんだけど、その時はマトモにお祝いしなかったし、今年はちゃんとしたいなぁなんて柄にもなく思った。
ホント柄じゃない。
誰かの生まれた日を祝いたいなんて。
しかも心から、なんてねぇ。
喜んでくれるかなぁとか笑ってくれたらなぁとかただそんな風に思っただけなんだけど。
でも、誕生日なんて祝ったことも祝われたこともないし、どうしていいかイマイチ分からなかった。
とりあえず世間一般の『祝い方』を参考にしてみることにする。
まずは……
誕生日っていったらケーキだよね。ケーキ。
「ドコだよここ……」
昼過ぎまで爆睡してた時任は、寝ぼけ眼を擦りながらファンシーな面構えの店を見上げた。
「ケーキ屋。本日はケーキバイキングの火曜日」
「野郎二人でケーキ屋!?さっぶ!!」
恥ずいとかありえねぇとか喚く時任を店内に引きずっていく。
「好きなだけ食べていいからね~」
有無を言わさぬ俺の笑顔に気圧されたのか、躊躇いながらも時任はケーキを物色し始める。
カラフルにひしめくケーキの群れから時任が選んだのは、小さなチョコケーキ二つだけだった。
「そんだけ?」
「……俺、甘いモンそんな好きじゃねぇもん……」
不満げな俺に、時任は言い訳するようにそう言った。
チョコケーキ二つを時任は美味しそうに平らげてたけど。
なーんか違うような。
うーん。やっぱ、誕生日っていったらプレゼントだよねぇ。
「今度はデパート?」
横浜のソ○ウに連れて行くと、さっきにも増して時任は訝しげな顔をして俺を見た。
「なんでも買ってあげる。好きなモノ選びな」
「……」
不審気顔を浮かべたまま時任が持ってきたのはゲームソフトだった。
「そーゆーのじゃなくてさぁ、もっと高くてちゃんとしたの買ってあげるって。しかもソレ、駄ゲーっぽくない?」
「別に俺がコレ欲しーんだからいーだろ!!」
ムッとした顔で時任が押し付けたソレを購入してやると、サンキューという感謝の言葉が返ってきた。
けど、なーんか違うような。
残る誕生日イベントは豪華なゴチソウかなぁ?
中華街の、普段は絶対行かないような高い(格式も値段も)店に連れ立って入る。
鵠さんのコネで予約済み。
席に着くと程なくして次々と料理が運ばれてきた。
モスバか良くてファミレスの料理しか見慣れてない時任は、目の前に出される高級料理にイマイチピンとこないようだった。
「美味しい?」
なんか思ってたよりも時任が嬉しそうじゃない。
ハズしたのかなぁ。もしかしてフランス料理のが良かった?
「美味しい……けど……」
時任はアワビをパクッと口に入れると上目遣いに俺を見た。
「……どーしたんだよ久保ちゃん。今日なんか変じゃねぇ?」
そう言われて気付く。
ああ、そういえば肝心なことを言ってなかった。
「誕生日、おめでとう」
それを聞いて、時任はキョトンとした後、照れたように笑った。
見たかった表情。
今日ずっと喜ばせたいと、笑わせたいと思って色々頑張ったのに、時任を笑顔にしたのはケーキでもプレゼントでもゴチソウでもなく俺の言葉一つだった。
その事実が焼けるような熱を心臓に齎す。
一人の時は、誰を喜ばしたいとも笑わせたいとも思わなかった。
でも今はお前がいる。
時任が喜ぶ。時任が笑う。
胸が熱くなる。
それだけで生きてると、思い知る。
お前が必要だと。
ああ。だから、俺は祝いたかったのか。
誕生日おめでとう、時任。
生まれてくれて、有難う……
「ってか最初に言うべきだろソレ」
……おっしゃる通りで。