時任可愛い
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薄暗く昼飯時だというのが信じられないほどの曇天で、頬を切り刻むような冷たい風には白いものがチラチラと混ざっていた。
シンとした小さな公園に人影はない。
雪と戯れる時任と、俺の方には。
うっすらと雪の積もった公園は白く、新雪を面白がって踏みつけていた時任の足跡が模様を描いていた。
俺の足跡は躊躇いがちに時任の半歩後ろに続いている。
時任はまっさらの雪に踏み出すことを躊躇わない。
黒い猫っ毛に雪を付け、足下で雪を鳴かせながら楽しそうに歩き回っていた。
煙草の煙を吸い込む度に、凍った空気が肺臓を刺す。
冷たさは、痛い。
しかし時任はそんな事感じてはいないのだろう。
相変わらず楽しそうだ。
足跡を付けるのに飽きた時任は、今はしゃがんで雪玉を作るのに熱中しており、少し離れたブランコのそばで煙草を吸いながらそれを眺めている。
せっせと量産されていく雪玉。
勿論作るだけでは済まないだろう。
時任の次に起こすであろう行動を予測して、煙と共に息を吐く。
この時期、俺の息も時任の吐く息も共に白い。
猫は炬燵で丸くなるんじゃなかったのかねぇ。
ウチに炬燵なんてないけど。
寒さに凍え停滞しているような空気が白い煙をゆっくりと運んで行き、流れていく煙を目で追って、ふと寒椿が目に留まる。
雪を被っても尚色褪せない赤。
白の中の凛とした赤は雪と対象的に寒々としていた。
寒いなぁ。
暖房のついた温かい部屋を思う。
しかし、自分一人で温かい部屋に帰る気は起こらなかった。
時任が口を開けて赤い舌を出し、雪を食べようとしている。
そんな子供っぽい姿に知らず知らず微笑んでいる自分に気付き、苦笑した。
お前を見てる方が、ずっと温かい。
吸い殻を携帯灰皿にねじ込み、ついでに冷えた指先を擦り合わせる仕草に目敏く気付いた時任が、此方に駆け寄ってきた。
「寒ぃの?」
俺の手をとる。
触れた指先は雪と同じ温度だった。
「お前の手の方が冷たい」
握り込んで息を吐く。
体温の篭もった水蒸気はしかし、指先を温めるには到らない。
コートのポケットに握ったままの手をつっこむと、漸くじんわりとした温かさに包まれた。
「あったけぇ」
そう言って時任は、夏の花のように笑った。

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