時任可愛い
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服を全て剥がれ、時任は小さく息を詰めた。
覆いかぶさる久保田はその表情をじっと見ている。
路地裏で久保田が時任の手を取って以来、時任が久保田に怯えるそぶりを見せたことはない。
だが、ベッドの上で抱き合う時だけ、その直前に見せる表情だけは、少し怯えているように見えた。
久保田は時任の足元に屈み込むと、膨脛に唇を寄せた。
きしり、と、ベッドのスプリングが鳴く。
その肌には青紫の痣がくっきりと浮かび上がっている。
膨脛に限らず、全身、痣と擦過傷が時任の身体にくっきり浮かんでいる。
出雲会にやられた傷だ。
白いシーツの上では、その痛々しい青紫が余計に目に付いた。
その一つ一つに口付けて、丁寧に舐める。
癒すつもりはなかった。
舌の動きはゆっくりと優しいものであったが、時任の痛みを気遣ってはいない。
舌先で強く押されて、時任は微かに呻く。
びくりと、痩躯が揺れる。
構わず唇を押し付けて舐った。
右足、左足、腹と順序に、さながら愛撫のような行為を続けていく。
痣がまるでキスマークだ。
しかしこれに、性的な意味は含まれていない。
じゃあ、どんな意味が?
久保田は時任の肌の上で嘲笑う。
何の意味もない。
時任の身体に刻み込まれたこの痕跡は、いずれ消えるだろう。
それが分かっていても、駄目なのだ。
腹、胸、腕を辿り眉間に唇で触れる。
舐めると、擦り切れた肌がざらりとする。
ここは切れて血が流れていた。
今はもう鉄臭い味はしなかった。
急に狂暴な気持ちになって、喉元に噛み付く。
歯と歯で喉笛を挟み込むと、口の中で時任が唾液を飲み込む振動がダイレクトに伝わってきた。
呼吸をする、皮と筋と骨と肉のささやかな動きすらも。
このまま顎に力を込めれば、皮は裂け、気管は潰れ、骨は砕けるだろう。だが、脈拍すら伝わってくるのに、怯えの感情は微塵も伝わってこない。
こういう時、時任は、久保田に、怯えはしないのだ。
久保田は喉から顔を話した。
うっすらと歯型が付いた、己が付けた薄赤い痕を同じように舐める。
喉から滑り落ちた言葉は、思ったよりも何故か掠れて響いた。


「手当て、しようか」

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