時任可愛い
時任はそれなりの美少年というバックギャモンの設定に萌え果てて生きてきたので今更青年って言われても…って泣いてたんですが、青年ってことはそれなりの美青年ってことじゃないですか美青年ちょううめぇ美青年時任ハァハァ今日も生きるのが楽しいです。
荒磯(18才)→少年
WA(20才)→青年
で今後使い分けていこうと思います。
あー連休明けの仕事ちょうだるいー
でもなんとか目処は立ちそう。良かった…
因みに三連休ガチで外に出ず原稿してたんですが地味に辛かった…
あ、でも土曜日は夜両親と食事行ったわ。
今月実家帰らないっつったら食事くらいという話になり。
原稿の時間六時間削ってホント私ったら親孝行ですね!!
フカヒレやら何やら散々食わせてもらって何が親孝行だって感じですが。
「食うだけ食ったし帰るわ」
「お前…」
酷い娘です(笑)
実家に帰れない理由はやんごとなき事情で濁したけどちょう責められた…早く終わらせて帰らないとまた怒られる…
そんな感じで書きました5章。
これで、紅蓮でサンプルとしてあげるのは終わりです。
ここからですよ私と私の戦いは…ブログに上げてたら上げなきゃって気持ちで書けるけど後はもう一ヶ月後の締切しかないからなぁ。
原稿ってホント孤独…
しかし久保時が今後どうこじれるのか分かりやすい展開ですね!
いちゃいちゃしてるのもここまでです。
いやいちゃいちゃはこの先もするんだけど。
そうそうざっくり砂漠パロとか書いたけど、舞台は中央アジアです。
中央アジア史萌えと山月記萌え足して時任萌えを掛けたら何故かああなった。なんということでしょう。
荒磯(18才)→少年
WA(20才)→青年
で今後使い分けていこうと思います。
あー連休明けの仕事ちょうだるいー
でもなんとか目処は立ちそう。良かった…
因みに三連休ガチで外に出ず原稿してたんですが地味に辛かった…
あ、でも土曜日は夜両親と食事行ったわ。
今月実家帰らないっつったら食事くらいという話になり。
原稿の時間六時間削ってホント私ったら親孝行ですね!!
フカヒレやら何やら散々食わせてもらって何が親孝行だって感じですが。
「食うだけ食ったし帰るわ」
「お前…」
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これで、紅蓮でサンプルとしてあげるのは終わりです。
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原稿ってホント孤独…
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にゃんさんへ
こんばんわ!
ご無事で何よりです!私はもうパソコンの前にしかいなかったので全然無問題でした。。。
いや遠雷と台風は鉄板ですよね~久保時は本当に生きるのを楽しくさせてくれるなって思います。
べるばら情報も有難うございました!
通販、有難うございます!
メールアドレスを拍手で頂ければ個別で対応させて頂きます!
でも、忠犬マコトとdespotismのサンプル読まれてからでも遅くはないと思いますよ!(笑)
忠犬マコトは残部少なので、スパコミの前に一言頂けましたら幸いです。
despotismはですねー、グロくはないのですが、久保たんが時任君を精神的に、肉体的に苛めてるアレな本なのでホント……軽くDVなので……駄目な様でしたら無理はなさらないでください!
にじこさんへ///
お加減如何ですか><回復されたようでしたら何よりです!
ぴゃあああああホント嬉しすぎて変な叫び上げてしまったのですが厚かましくて本当にすみません。
にじこさんのその妄想を物理的に眺めたいです!厚かましくて本当にすみません!!!
うわぁああそんな昔のこと覚えてて下さってるなんてなんかもう言葉もないです。有難うございます。
私のこのにじこさんのご本が楽しみな気持ちもホントお見せしたい……三次元的に!
後、ストーカーっぷりはホント負けませんから!いつも張り合ってますけど!!!(笑)
みちるさんへ
早速メアド有難うございます!承知しました!
週末くらいに返信させて頂きますので、もし来週になってもメールが届いていないようでしたらお手数ですが拍手等でお知らせ頂けますと幸いです。
通販なんて言って頂けるとは思ってなかったので、こちらこそとても嬉しいです!
有難うございます!
こんばんわ!
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にじこさんへ///
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みちるさんへ
早速メアド有難うございます!承知しました!
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有難うございます!
その日の昼下がりの市庭は奇妙な程に静まり返っていた。悪評高い『夜の盗賊団』が姿を現した為だ。
彼らは市井の人を標的に劫掠や暴虐な行いをすることはないが、一方で、一度刃を向ければ一都市を撃滅させるまで攻撃の手を止めることはない、『夜の盗賊団』はそういう性格の組織だった。現に、市場の外方に配置された馬車の荷台から覗くのは、重砲二門。剥き出しの恐嚇に、官憲も遠巻きに看視する外に術がない。
市場を占有したかの如き有様で、『夜の盗賊団』は買い出しを楽しんでいる。
「酒を買えよ酒を。今日は飲むぞ」
「今日も飲むの間違いっすよ、お頭」
呆れた様な手下の肩を叩いて豪快に、頭と呼ばれた壮年の男は笑った。
「細けぇことは気にすんな」
百人程の子分を引き連れ、山程酒を買わせ、酷く機嫌が良さそうな頭目の前に、何処から現れたのかふらりと一人の少年が立塞がった。
「なぁ、俺のこと買ってよ」
随伴する手下達の手を躱し、取り縋る様にして頭目に寄り添う。男は歩みを止めた。少年は外衣の合せ目を解く。露わになる華奢な首と頸輪。頭目は眉宇を寄せた。
「主人の小遣い稼ぎか?」
「安く売る気はねぇよ。金が有りそうだからあんたに声掛けたんだ」
前髪の隙間から長い睫毛に縁取られた黒玉が濡れた様に揺れ、雪を欺く紅裙が男を見上げる。白昼にも関わらず少年が纏うのは情炎の名残であり、その目は夜に生きてきた者の目であった。
「俺が誰だか知ってるな?」
だが、海千山千の男に生半尺な色香は通じぬ。頭目は佩帯している大振りの剣を抜くと、刃で太腿を撫でそのまま股間に突き付けた。
「両手両足削ぎ落として、股座に増やした穴に突っ込むのが趣味かもしれねぇぜ?」
言葉こそ残忍酷薄な色に満ちていたが、胸懐に抱いていたものは寧ろ、奴婢に身を窶しこの様な賊徒にまで春を鬻ごうとすることへの憐愍の情に近く、それ故に脅して追い払う事が彼の真意であった。
真意はどうであれその眼光には男の苛虐な言葉を真実だと思わせるだけの凄味があったが、畏怖し遁逃するどころか微動だにせず、ひたりと頭目を見据えたまま、少年――時任は言い放った。
「やってみろよ。できるもんならな」
「できるもんなら……ぶははははははッ!」
空を振り仰ぎ呵々大笑した。一通り笑うと剣を収め、時任の肩を抱いて再び歩き出した。
「こんな大馬鹿野郎、初めて見たぜ。おい、連れて帰るぞ」
「お頭、こんな得体の知れねぇ餓鬼ッ!」
「賞金首の自覚あるんスか、今までとは違うっすよ!」
頭と時任の遣り取りを黙視していた口々に戒飭したが、頭は取り合わない。
「ここまで言うんだ、大した名器なんだろうさ」
時任を見下ろし、匪賊相応の酷薄な笑みを浮かべた。
「試してみるのも悪くねぇ」
市場での買い物を終えた一団は引き揚げ、雀色時に郊外の拠点へと参着した。
地図の読めぬ時任に塒の在処が相浦の説明通りであるのか分からなかったが、尠くとも幕屋の配置は相違ない様であった。
参着した途端、時任は頭の婢女達に引き渡された。流れる様な手際の良さで外衣から下穿きまで全て奪われ、香草の石鹸にて全身隈無く洗滌される。
「お頭の前に出るならもっと色っぽくないとね」
薄く化粧を施され、髪に飾り玉を編込まれた時任は終始辟易していたが、女達は美しい翫具を嬉々とし、時任は為す術がなくされるが儘に飾り立てられた。
そうして面紗を被り繻の衣装を身に着けた時任が大きな穹廬に通された時、樽俎は既に始まっていた。
歩く度に飾りの鋳貨がしゃなりと涼やかな音を立て、胸元の紅玉が煌く。注がせた馬乳酒を豪快に呷っていた頭目は、その姿を見て一驚した様に片眉を上げた。
「意外と似合ってるな」
「あんたの命令じゃなかったのか」
「もちっと俺好みにしろとは言ったが……」
薄く紅を引いた唇、僅かに繻に浮び上がる体の線、剥き出しの腰や太股しげしげと眺めた頭領は慮外の命を時任に出した。
「お前、踊れ」
「は……?」
時任は絶句する。確かに着せられたのは踊子の衣裳であったが、舞蹈等見た事も無ければ舞った事も無い。
「舞なんて知らない」
「その辺の阿呆だって音楽が始まれば踊り出す。何も知らねぇ餓鬼でもだ。上手い必要はない。だが、俺をその気にさせてみろ」
そう言われ、強引に遊宴の輪の中心に押し出される。酔漢達は余興に興奮し、馬首琴を掻き鳴らした。時任は途方に暮れた。舞など知らぬが、頭目を閨房に誘引し部下と分断するまで、不興を買う訳にはいかなかった。
意を決し、優雅に一礼すると拍子に合わせ足踏みする。目を瞑り音に集中すると、不思議と体は自ら音の取り、跳ね、回り、手を上げ、足を運び、全身で歌う様に踊る。目を開け面紗を掴むと、頭目の目を見据えたまま目元を残して面紗で覆い隠し、艶かしく腰を揺らした。舞は知らずとも男を誘う目線と腰の揺らし方は知っている。艶然と笑い挑発するように手首を動かすと、男達は囃し立て、手拍子を叩いて盛り上がった。
時任はその内の一人の腰から刀を抜取ると、刀剣を煌かせ剣舞を始める。無論、正しい所作等知らぬ為、音楽に合わせ想見の敵相手に斬り結んでいるだけであった。自在な剣捌きに喝采が上がる。だが、時任が今握っているのは舞の為の剣ではなく、実践の為の剣だ。重く、自在に扱うには相応の膂力と技倆が必要とされる。蓋し場の幾人かは時任が手練れであること看取しただろう。無論、頭領も。
馬首琴の音に鋳貨がしゃんしゃんとぶつかり合う音が混じり、一層昂揚する。終曲が近い。時任は幾度も回った。回る度に裾が揺れ、抜ける様な肌が露わになっては隠れる。僅かに、此の儘頭領の喉に剣を突き立て為留める可能性を考える。殺すことは可能だ。だが、生還は不可能。それでは意味がない。
曲が終わり、頭目の元に一足飛びに踏み込むと喉元に剣先を突き付けた。幾人かが気色ばむが、剣先を突き付けられた当人は愉快そうに笑うだけであった。男は時任に殺意がないことを看破していた。
「上手いじゃねぇか。本当に踊り子だったのか?」
「舞なんて知らねぇよ……踊ったのは初めてだ」
時任は剣を放り捨てると、武骨な膝に撓垂れ掛かった。息を乱して上下する喉を晒しながら、頭目の見上げ問い掛ける。
「……その気になった?」
頭目は笑って盃を置く。膝上の胸倉を掴んで引き寄せると、耳元に囁いた。
「奥、行くぞ」
彼らは市井の人を標的に劫掠や暴虐な行いをすることはないが、一方で、一度刃を向ければ一都市を撃滅させるまで攻撃の手を止めることはない、『夜の盗賊団』はそういう性格の組織だった。現に、市場の外方に配置された馬車の荷台から覗くのは、重砲二門。剥き出しの恐嚇に、官憲も遠巻きに看視する外に術がない。
市場を占有したかの如き有様で、『夜の盗賊団』は買い出しを楽しんでいる。
「酒を買えよ酒を。今日は飲むぞ」
「今日も飲むの間違いっすよ、お頭」
呆れた様な手下の肩を叩いて豪快に、頭と呼ばれた壮年の男は笑った。
「細けぇことは気にすんな」
百人程の子分を引き連れ、山程酒を買わせ、酷く機嫌が良さそうな頭目の前に、何処から現れたのかふらりと一人の少年が立塞がった。
「なぁ、俺のこと買ってよ」
随伴する手下達の手を躱し、取り縋る様にして頭目に寄り添う。男は歩みを止めた。少年は外衣の合せ目を解く。露わになる華奢な首と頸輪。頭目は眉宇を寄せた。
「主人の小遣い稼ぎか?」
「安く売る気はねぇよ。金が有りそうだからあんたに声掛けたんだ」
前髪の隙間から長い睫毛に縁取られた黒玉が濡れた様に揺れ、雪を欺く紅裙が男を見上げる。白昼にも関わらず少年が纏うのは情炎の名残であり、その目は夜に生きてきた者の目であった。
「俺が誰だか知ってるな?」
だが、海千山千の男に生半尺な色香は通じぬ。頭目は佩帯している大振りの剣を抜くと、刃で太腿を撫でそのまま股間に突き付けた。
「両手両足削ぎ落として、股座に増やした穴に突っ込むのが趣味かもしれねぇぜ?」
言葉こそ残忍酷薄な色に満ちていたが、胸懐に抱いていたものは寧ろ、奴婢に身を窶しこの様な賊徒にまで春を鬻ごうとすることへの憐愍の情に近く、それ故に脅して追い払う事が彼の真意であった。
真意はどうであれその眼光には男の苛虐な言葉を真実だと思わせるだけの凄味があったが、畏怖し遁逃するどころか微動だにせず、ひたりと頭目を見据えたまま、少年――時任は言い放った。
「やってみろよ。できるもんならな」
「できるもんなら……ぶははははははッ!」
空を振り仰ぎ呵々大笑した。一通り笑うと剣を収め、時任の肩を抱いて再び歩き出した。
「こんな大馬鹿野郎、初めて見たぜ。おい、連れて帰るぞ」
「お頭、こんな得体の知れねぇ餓鬼ッ!」
「賞金首の自覚あるんスか、今までとは違うっすよ!」
頭と時任の遣り取りを黙視していた口々に戒飭したが、頭は取り合わない。
「ここまで言うんだ、大した名器なんだろうさ」
時任を見下ろし、匪賊相応の酷薄な笑みを浮かべた。
「試してみるのも悪くねぇ」
市場での買い物を終えた一団は引き揚げ、雀色時に郊外の拠点へと参着した。
地図の読めぬ時任に塒の在処が相浦の説明通りであるのか分からなかったが、尠くとも幕屋の配置は相違ない様であった。
参着した途端、時任は頭の婢女達に引き渡された。流れる様な手際の良さで外衣から下穿きまで全て奪われ、香草の石鹸にて全身隈無く洗滌される。
「お頭の前に出るならもっと色っぽくないとね」
薄く化粧を施され、髪に飾り玉を編込まれた時任は終始辟易していたが、女達は美しい翫具を嬉々とし、時任は為す術がなくされるが儘に飾り立てられた。
そうして面紗を被り繻の衣装を身に着けた時任が大きな穹廬に通された時、樽俎は既に始まっていた。
歩く度に飾りの鋳貨がしゃなりと涼やかな音を立て、胸元の紅玉が煌く。注がせた馬乳酒を豪快に呷っていた頭目は、その姿を見て一驚した様に片眉を上げた。
「意外と似合ってるな」
「あんたの命令じゃなかったのか」
「もちっと俺好みにしろとは言ったが……」
薄く紅を引いた唇、僅かに繻に浮び上がる体の線、剥き出しの腰や太股しげしげと眺めた頭領は慮外の命を時任に出した。
「お前、踊れ」
「は……?」
時任は絶句する。確かに着せられたのは踊子の衣裳であったが、舞蹈等見た事も無ければ舞った事も無い。
「舞なんて知らない」
「その辺の阿呆だって音楽が始まれば踊り出す。何も知らねぇ餓鬼でもだ。上手い必要はない。だが、俺をその気にさせてみろ」
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曲が終わり、頭目の元に一足飛びに踏み込むと喉元に剣先を突き付けた。幾人かが気色ばむが、剣先を突き付けられた当人は愉快そうに笑うだけであった。男は時任に殺意がないことを看破していた。
「上手いじゃねぇか。本当に踊り子だったのか?」
「舞なんて知らねぇよ……踊ったのは初めてだ」
時任は剣を放り捨てると、武骨な膝に撓垂れ掛かった。息を乱して上下する喉を晒しながら、頭目の見上げ問い掛ける。
「……その気になった?」
頭目は笑って盃を置く。膝上の胸倉を掴んで引き寄せると、耳元に囁いた。
「奥、行くぞ」
「仕事……ねぇ」
久保田は小首を傾げた。
「絢炎で落ち合うんじゃなかったっけ」
「そっちとは別件」
絢炎という名に時任は聞き覚えがあった。今朝久保田が口にしていた、この旅の目的地だ。
「絢炎には桂木がいるぜ。奴さんの調査をしながら首をながーくしてお前を待ってる」
「相変わらず尻に敷かれてるんだ」
「まぁな」
相浦は照れた様に頭を掻いた。
「桂木ちゃんを置いてわざわざ来るってことは、それなりの話って訳か」
「話が早くて助かるぜ」
相浦は手招きし同道を求める。往来で話せる様な内容ではない。久保田は首肯し、近傍の屋台を指した。
「西瓜買ってからね」
久保田と、西瓜を小脇に抱え昼餉の盛られた皿を片手に持った時任は相浦の旅寓に請待された。通された房室の床に引敷物を広げ昼餐を並べて、腰を下ろす。時任は久保田の左隣に。相浦は二人の向かいに。
旅荷から取り出した皿に料理を取分け手渡すと、時任は夢中で頬張り始める。久保田は短剣で西瓜を切り分けるとその面前に置いた。主人である筈の久保田が進んで世話を焼く様を呆れた様に相浦は眺める。
「相浦もどーぞ」
「お、悪いな」
皿を受取ると、時任に恨みがましい目で見られ相浦はたじろいだ。食糧は元々二人分として購入していた為、時任にとっては取分が減り物足りない昼餐となったが、三等分したとはいえそれでも並より多い位だ。痩躯に似合わぬ大食を久保田は只微笑ましく見ている様だった。
「さっき小腹が空いて買ったんだけど」
相浦は己の旅荷から干し果物を取出して時任の眼前に並べる。手を止め、時任は当惑した様に久保田と相浦の顔を交互に見た。
「遠慮せず食っていいぜ」
相浦は安心させる様にそう言ったが、奴隷である時任に対する相浦の態度が平民に対するそれと何ら変わらぬことに疑義を抱き、時任は己が取るべき態度を決め倦ねていた。その様を注視し、遭逢して間もない頃は己に対してもそうであったことを久保田は追思する。そしてその後、己に懐いた様に相浦に懐くことを考えると気疎く憶え、大人気なく釘を刺した。
「餌付け禁止」
「犬猫みたいに言うなよ」
むくれる時任の口の端に付いた米粒を摘み口に運ぶ。指を舐め、久保田は相浦に目線を移した。
「で、誰を殺せばいいわけ?」
「相変わらずだな」
直截的な物言いに相浦は苦笑を零し、久保田に合わせ単刀直入に本題を口にした。
「『夜の盗賊団』がこの町に居る」
「大物だね」
「ああ。久々の特級だ」
淡々とした久保田とは対照的に勢い込んで前のめりになり乍ら、相浦は熱っぽく弁を振るう。
「確か賞金出てなかったでしょ。国も怖がっちゃって」
「それが出たんだよ。轢氏が出した。額も大分奮発してる。こりゃ本気だな。この時期に夜の盗賊団みてぇなのに一仕事されちゃ困るんだろうが……それが吉と出るか凶と出るかはお前次第だな」
「何か訳有りみたいね」
「近く国王の代替わりがあるらしい」
「へぇ」
正直な所、久保田にとっては気乗りがしない話だった。標的の規模が大きければその分、仕留めるのに障礙も多く手間も掛かり面倒この上ない。長期化する可能性も高くなる。
西瓜を食齧る時任に一瞥をくれる。差向き所持する路銀でも絢炎まで旅するのに支障はない。だが節倹は免れ得ぬ。黯然たる窖しか知らぬ時任が、この先の旅路にて何に心奪われ何を強請るか皆目見当が付かぬ以上、甘やかす為にも路銀は潤沢な程良かった。
久保田は溜息を吐いた。
「まぁ、賞金が出るならやるけど。夜の盗賊団って規模はどの程度だっけ?」
「正確な人数は分からなかったが、百は居るな。東夏陵を壊滅させた位だ、火力も腕っぷしも相当のもんだろうし、頭目も相当切れ者だ。正面切って戦えばまず勝ち目はないだろうな。でも、夜陰に乗じた奇襲なら何人居ようと久保田の敵じゃないだろ?」
相浦はにやりと笑った。
「な、千人殺し」
「千人殺し……?」
西瓜を食み乍ら二人の会話を黙然と聞いていた時任は顔を上げ、聞き慣れぬ剣呑な名前を鸚鵡返しに口にする。
「その呼び方しないで欲しいなぁ。恥ずかしいから」
「久保田に羞恥心があったとは驚きだな」
二つ名で呼ばれた久保田は辟易した様に眉を顰めたが、交誼を結んで長い相浦は気にした風もない。
「久保ちゃん」
時任は久保田の顔を見詰めた。久保田は薄く笑む。
「千人殺したから、千人殺し。そのまんま」
「こう見えても強ぇんだぜ! 久保田は」
「強いのは、知ってる」
だが、具体的に数値化されたその千人という値は途方も無い数字だ。
「千人以上殺した俺は嫌い?」
「嫌いじゃない」
即答した時任を久保田も見詰める。眼界にお互いしか居らぬかの如く振舞う二人に、相浦は咳払いをした。
「……とにかく、塒は特定してる。後は上手く潜り込む方法を考えねぇとな」
「まぁ、難しいだろうねぇ」
漸く時任から視線を外し、相浦が広げた輿図を覗き込んだ。空になった皿を置き、烟草に火を付ける。
「賞金首になったことはもう知ってるだろうしな。鼠一匹入り込む隙間もねぇだろうが……頭目と部下の分断さえできればやりようはあるんだけどな。指揮系統は頭目一人に集約されているし」
「それが難しいんでしょ、分断なんて内部からやらないとできないし。噂通りの団結力なら買収もできないだろうしねぇ」
「そーなんだよなぁ……張り付いて隙伺うしかないか……」
沈思する久保田と相浦の耳に、唐突に時任の一言が飛び込んだ。
「俺がやる。潜り込んで、その盗賊の頭を一人にすりゃいいんだろ」
濡らした手巾で手を拭いながら、事も無げにそう確言する。だが、久保田は即座に不許可の言葉を発した。
「駄目」
「何で! 勝算はあるッ!」
食って掛かる時任に、久保田は膠も無い。
「危ないでしょ。理由はそれだけ。それで十分」
「下手に手を出す真似はしねぇよ。そこまで馬鹿じゃねぇ」
「接触するだけで十分危険でしょ。相手分かってる? 声掛けただけで殺される可能性だってあるんだ」
言募る唇に指を当て、薄いそれをゆっくりとなぞるとそのまま白い首筋に滑らせる。武骨な鈍色の首輪の下に指を潜り込ませ、気管、頸動脈、急所を順に中指と人差し指を這わせた。命を愛撫するかの如く。
相浦は我知らず目を逸らした。
「これは俺の仕事。お前には関係ないから」
久保田は明確に時任を突き放した。初めての拒絶に怯んだ様に目を瞬かせ、時任は唇を噛んだが、それでも引き下がる事無く久保田の左手を取ると両手で握った。
「俺、久保ちゃんの、何」
硝子の奥、眸子の中、凍土の如く頑強な情意を、それを凌駕する熱情で溶融させるかの様に見詰める。
「奴隷じゃねぇんだろ、じゃあ何なの」
久保田は答えない、否、答えられなかった。関係性に重きを置かぬ久保田にとって、己にとって時任が何なのか料簡する事もなく、望む関係もまたなかったが故に。
「俺、久保ちゃんの……相方になりたい。手伝わせろよ」
二人は暫時、言葉なく見詰め合った。
この時が初めてであった。時任が久保田の意思ではなく己が意志を通そうとし、真の意味で奴隷として振舞わなかったのは。
久保田は深く嘆息した。折れたのは久保田の方であった。
「殺されない?」
「殺されない」
「絶対?」
「絶対」
握られた左手に力を籠め、久保田は痛い程に握り返した。
「じゃあ……頼んだ」
「うしッ!」
時任は笑顔を輝かせた。屈託のない幼い笑顔、そんなもの一つで胸に垂下する鬼胎が減軽される己を久保田は自嘲する。
その後、時間を掛けて盗賊団が訪れる場所、塒となる幕屋の位置関係、久保田が夜襲を開始する時間等、細かく認識を合わせた。
「気を付けてよ」
「久保ちゃんこそ」
「何かあったらいつでも逃げていいから」
「塒の傍に森がある。やばくなったらそこへ逃げ込め」
「大丈夫だって」
時任は二人の憂慮を破顔一笑、一蹴した。
「朝までには迎えに行く」
「ん。……待ってる」
久保田が時任の意志を優先させたのは、彼の事を大切にしているが故だ。旅中も極力彼の冀求を聞き、それを優先し叶えてきた。それが大切にするという事だと久保田は思為していた。だが、何故それ程までに大切にするのか省察することはなかった。
時任は状況に応じて決めると言い、目的を遂げる為の具体的な手立てについて終ぞ口にしなかったが、そのことに久保田が思い至らなかった筈はない。了得した上で久保田が見誤っただけだ。己の執着の度合いと執心の種類を。
久保田が慮るべきは時任の命だけではなかったのに。
時任はあの短剣を宿に置いて、出て行った。
久保田は小首を傾げた。
「絢炎で落ち合うんじゃなかったっけ」
「そっちとは別件」
絢炎という名に時任は聞き覚えがあった。今朝久保田が口にしていた、この旅の目的地だ。
「絢炎には桂木がいるぜ。奴さんの調査をしながら首をながーくしてお前を待ってる」
「相変わらず尻に敷かれてるんだ」
「まぁな」
相浦は照れた様に頭を掻いた。
「桂木ちゃんを置いてわざわざ来るってことは、それなりの話って訳か」
「話が早くて助かるぜ」
相浦は手招きし同道を求める。往来で話せる様な内容ではない。久保田は首肯し、近傍の屋台を指した。
「西瓜買ってからね」
久保田と、西瓜を小脇に抱え昼餉の盛られた皿を片手に持った時任は相浦の旅寓に請待された。通された房室の床に引敷物を広げ昼餐を並べて、腰を下ろす。時任は久保田の左隣に。相浦は二人の向かいに。
旅荷から取り出した皿に料理を取分け手渡すと、時任は夢中で頬張り始める。久保田は短剣で西瓜を切り分けるとその面前に置いた。主人である筈の久保田が進んで世話を焼く様を呆れた様に相浦は眺める。
「相浦もどーぞ」
「お、悪いな」
皿を受取ると、時任に恨みがましい目で見られ相浦はたじろいだ。食糧は元々二人分として購入していた為、時任にとっては取分が減り物足りない昼餐となったが、三等分したとはいえそれでも並より多い位だ。痩躯に似合わぬ大食を久保田は只微笑ましく見ている様だった。
「さっき小腹が空いて買ったんだけど」
相浦は己の旅荷から干し果物を取出して時任の眼前に並べる。手を止め、時任は当惑した様に久保田と相浦の顔を交互に見た。
「遠慮せず食っていいぜ」
相浦は安心させる様にそう言ったが、奴隷である時任に対する相浦の態度が平民に対するそれと何ら変わらぬことに疑義を抱き、時任は己が取るべき態度を決め倦ねていた。その様を注視し、遭逢して間もない頃は己に対してもそうであったことを久保田は追思する。そしてその後、己に懐いた様に相浦に懐くことを考えると気疎く憶え、大人気なく釘を刺した。
「餌付け禁止」
「犬猫みたいに言うなよ」
むくれる時任の口の端に付いた米粒を摘み口に運ぶ。指を舐め、久保田は相浦に目線を移した。
「で、誰を殺せばいいわけ?」
「相変わらずだな」
直截的な物言いに相浦は苦笑を零し、久保田に合わせ単刀直入に本題を口にした。
「『夜の盗賊団』がこの町に居る」
「大物だね」
「ああ。久々の特級だ」
淡々とした久保田とは対照的に勢い込んで前のめりになり乍ら、相浦は熱っぽく弁を振るう。
「確か賞金出てなかったでしょ。国も怖がっちゃって」
「それが出たんだよ。轢氏が出した。額も大分奮発してる。こりゃ本気だな。この時期に夜の盗賊団みてぇなのに一仕事されちゃ困るんだろうが……それが吉と出るか凶と出るかはお前次第だな」
「何か訳有りみたいね」
「近く国王の代替わりがあるらしい」
「へぇ」
正直な所、久保田にとっては気乗りがしない話だった。標的の規模が大きければその分、仕留めるのに障礙も多く手間も掛かり面倒この上ない。長期化する可能性も高くなる。
西瓜を食齧る時任に一瞥をくれる。差向き所持する路銀でも絢炎まで旅するのに支障はない。だが節倹は免れ得ぬ。黯然たる窖しか知らぬ時任が、この先の旅路にて何に心奪われ何を強請るか皆目見当が付かぬ以上、甘やかす為にも路銀は潤沢な程良かった。
久保田は溜息を吐いた。
「まぁ、賞金が出るならやるけど。夜の盗賊団って規模はどの程度だっけ?」
「正確な人数は分からなかったが、百は居るな。東夏陵を壊滅させた位だ、火力も腕っぷしも相当のもんだろうし、頭目も相当切れ者だ。正面切って戦えばまず勝ち目はないだろうな。でも、夜陰に乗じた奇襲なら何人居ようと久保田の敵じゃないだろ?」
相浦はにやりと笑った。
「な、千人殺し」
「千人殺し……?」
西瓜を食み乍ら二人の会話を黙然と聞いていた時任は顔を上げ、聞き慣れぬ剣呑な名前を鸚鵡返しに口にする。
「その呼び方しないで欲しいなぁ。恥ずかしいから」
「久保田に羞恥心があったとは驚きだな」
二つ名で呼ばれた久保田は辟易した様に眉を顰めたが、交誼を結んで長い相浦は気にした風もない。
「久保ちゃん」
時任は久保田の顔を見詰めた。久保田は薄く笑む。
「千人殺したから、千人殺し。そのまんま」
「こう見えても強ぇんだぜ! 久保田は」
「強いのは、知ってる」
だが、具体的に数値化されたその千人という値は途方も無い数字だ。
「千人以上殺した俺は嫌い?」
「嫌いじゃない」
即答した時任を久保田も見詰める。眼界にお互いしか居らぬかの如く振舞う二人に、相浦は咳払いをした。
「……とにかく、塒は特定してる。後は上手く潜り込む方法を考えねぇとな」
「まぁ、難しいだろうねぇ」
漸く時任から視線を外し、相浦が広げた輿図を覗き込んだ。空になった皿を置き、烟草に火を付ける。
「賞金首になったことはもう知ってるだろうしな。鼠一匹入り込む隙間もねぇだろうが……頭目と部下の分断さえできればやりようはあるんだけどな。指揮系統は頭目一人に集約されているし」
「それが難しいんでしょ、分断なんて内部からやらないとできないし。噂通りの団結力なら買収もできないだろうしねぇ」
「そーなんだよなぁ……張り付いて隙伺うしかないか……」
沈思する久保田と相浦の耳に、唐突に時任の一言が飛び込んだ。
「俺がやる。潜り込んで、その盗賊の頭を一人にすりゃいいんだろ」
濡らした手巾で手を拭いながら、事も無げにそう確言する。だが、久保田は即座に不許可の言葉を発した。
「駄目」
「何で! 勝算はあるッ!」
食って掛かる時任に、久保田は膠も無い。
「危ないでしょ。理由はそれだけ。それで十分」
「下手に手を出す真似はしねぇよ。そこまで馬鹿じゃねぇ」
「接触するだけで十分危険でしょ。相手分かってる? 声掛けただけで殺される可能性だってあるんだ」
言募る唇に指を当て、薄いそれをゆっくりとなぞるとそのまま白い首筋に滑らせる。武骨な鈍色の首輪の下に指を潜り込ませ、気管、頸動脈、急所を順に中指と人差し指を這わせた。命を愛撫するかの如く。
相浦は我知らず目を逸らした。
「これは俺の仕事。お前には関係ないから」
久保田は明確に時任を突き放した。初めての拒絶に怯んだ様に目を瞬かせ、時任は唇を噛んだが、それでも引き下がる事無く久保田の左手を取ると両手で握った。
「俺、久保ちゃんの、何」
硝子の奥、眸子の中、凍土の如く頑強な情意を、それを凌駕する熱情で溶融させるかの様に見詰める。
「奴隷じゃねぇんだろ、じゃあ何なの」
久保田は答えない、否、答えられなかった。関係性に重きを置かぬ久保田にとって、己にとって時任が何なのか料簡する事もなく、望む関係もまたなかったが故に。
「俺、久保ちゃんの……相方になりたい。手伝わせろよ」
二人は暫時、言葉なく見詰め合った。
この時が初めてであった。時任が久保田の意思ではなく己が意志を通そうとし、真の意味で奴隷として振舞わなかったのは。
久保田は深く嘆息した。折れたのは久保田の方であった。
「殺されない?」
「殺されない」
「絶対?」
「絶対」
握られた左手に力を籠め、久保田は痛い程に握り返した。
「じゃあ……頼んだ」
「うしッ!」
時任は笑顔を輝かせた。屈託のない幼い笑顔、そんなもの一つで胸に垂下する鬼胎が減軽される己を久保田は自嘲する。
その後、時間を掛けて盗賊団が訪れる場所、塒となる幕屋の位置関係、久保田が夜襲を開始する時間等、細かく認識を合わせた。
「気を付けてよ」
「久保ちゃんこそ」
「何かあったらいつでも逃げていいから」
「塒の傍に森がある。やばくなったらそこへ逃げ込め」
「大丈夫だって」
時任は二人の憂慮を破顔一笑、一蹴した。
「朝までには迎えに行く」
「ん。……待ってる」
久保田が時任の意志を優先させたのは、彼の事を大切にしているが故だ。旅中も極力彼の冀求を聞き、それを優先し叶えてきた。それが大切にするという事だと久保田は思為していた。だが、何故それ程までに大切にするのか省察することはなかった。
時任は状況に応じて決めると言い、目的を遂げる為の具体的な手立てについて終ぞ口にしなかったが、そのことに久保田が思い至らなかった筈はない。了得した上で久保田が見誤っただけだ。己の執着の度合いと執心の種類を。
久保田が慮るべきは時任の命だけではなかったのに。
時任はあの短剣を宿に置いて、出て行った。