千々の紙切れが風に乗って花弁の様に風に舞う。
その紙に込められた想いも風に攫われて、想い人に届く事なく死んでいく。
「……最低ね。久保田君」
ラブレターを紙くずにした張本人を横目で睨む。
悪事を目撃された久保田君は涼しい顔だ、
長い指は執拗な程に細かく細かく手紙を破っていく。
シュレッダーも真っ青だわ。
ラブレターの宛先は、時任。
「これ渡した子さぁ、彼氏居るんだよね」
彼の言葉は意外にも言い訳染みていた。
こんな古臭い手使う癖に、と、独り言の様に漏らす。
「古臭い手は作戦なんじゃない?」
「かもね。ま、関係ないけど」
ひらりふわりと窓の外へ紙切れが舞い落ちる様はいっそ抒情的で、それを見つめる彼の顔に自嘲気な笑みが浮かんだ。
「女の子の素行はともかく、久保田君にそんなことをする権利はないでしょ」
「あるよ。俺には」
根拠のない台詞。
だけど二人を知る人間に対してはそれなりの説得力がある。
二人の絆や関係性を間近で見て来た私の様な人間に対しては、特に。
「時任に近付く女の子を邪魔し続けるの?」
「合格だと思えたら邪魔しないよ」
「時任の彼女の合否を久保田君が決めるんだ」
「そうだねぇ」
「じゃあ、私は?」
合格?不合格?
初めてこちらを振り向いた久保田君。
驚いた様子はない。
彼は私の気持ちに気付いて、様子を伺っていた。
嫌な男。
知ってたけど。
「……お似合いなんじゃない。二人とも気が強いけど、さっぱりした性分は似てると思うし。桂木ちゃんの意外と女の子らしいところ、時任は気付いてくれると思うよ」
低く静かな声と紫煙が私に絡み付く。
「でも、不合格」
わかっていた答えだ。
わかっていて、胸の奥がズキリと痛んだ。
時任に拒絶された訳でもないのに。
歪んだ顔を隠すように俯く。
「久保田君は時任のことが好きなの?」
「好きだよ」
彼の返答は素早く、迷いは無かった。
「……キス、とかしたことある?」
「前にも言ったと思うけど、俺らはそういう関係じゃないから」
彼は紫煙を吐き出した。溜息の様に。
「相方で、同居人で、ただの友達に思える時も恋人の様に見える時もある。でも、どの関係で言い表そうとしても足りないんだよねぇ。どれも当て嵌まって、どれも当て嵌まらない関係が一番近いのかも」
「でも案外、単純な関係になりたがってんじゃないの?久保田君は」
キスしたり、抱き合ったり、そんな単純な恋愛事をしたいだけなんじゃないの?
それを望みたくても望めないだけなんじゃないの?
「……さぁ」
彼は笑って、
「アイツの恋人に相応しい人間が居るとは思えなくて。俺も含めてね」
冗談めいた口調でそう言った。
馬鹿な男、と思いはしたけれど、口に出す事は無く、呑込んだ言葉は胸の奥底にはらはらと舞い落ちて消えた。